【プロ野球】選手の”巨大化トレンド”に異を唱えるイチローの体重論
正月太りをしてしまったファンを慰めるかのように、このオフの球界ニュースでは「増量」の話題が多い。身長193センチの大谷翔平(日本ハム)は、その巨体をさらに鍛え上げ、食事も1日6、7食に増やすことで、昨季よりも8キロ増量。人生初の100キロ超えを果たした。
菊池雄星(西武)も尋常ではない筋トレの成果で入団時よりも10キロ重い98キロに。掛布の秘蔵っ子、といわれる横田慎太郎(阪神)も、公式プロフィールよりも10キロ以上重い97キロまで体重が増えた。そして楽天のスーパールーキー、オコエ瑠偉も、オフの間のトレーニングと食事で、88キロから94キロへと増量した体でキャンプ入りする。
■ダルビッシュが作った「巨大化」のトレンド
今年に限らず、「巨大化」は最近の球界トレンドといってもいいだろう。この流れをつくったのがダルビッシュ有だ。2010年オフ、食事回数を増やし、筋トレの量もサプリメントも見直したことで10キロ増を果たし、100キロの大台でシーズンに突入。日本最終年を自己最多の18勝で締めた。
ただ、かつての清原和博のように、体重増・筋肉量UPを境にケガがちになり、かつての輝きを失ってしまった例もある。果たして「巨大化」「体重増」は正義なのだろうか?
そこで参考にしたいのが、43歳をこえてMLBでプレーを続けるイチローの言葉だ。
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■3キロ違うと全然動けない?
「アメリカに来ると、みんな体が大きいじゃないですか。一般の人でも僕らよりもデカい人がいっぱい。そこで、力とかパワーを勘違いして肉体を大きくすることは絶対にダメ! これは断言できますね」。
これは2014年、テレビ番組(ジャンクSPORTS)のインタビューに応じた際のイチローの言葉だ。イチローがスターであり続ける要因のひとつが「ケガをしない体」。毎日、毎シーズン試合に出続けることは球界スターの必須条件だ。その「ケガの予防」にも、体重とのバランスが密接に関係しているという。
「いろんなセンサーを体は発してくれますから。ここが危ないよっていうポイントを教えてくれない体に自分でしてしまう。ケガには必ず理由があるんです」。
ここまで断言するのは、イチロー自身が体重増によって苦しめられた過去があるからだ。
「僕はアメリカに来た時、体をちょっと大きくしたんです。でも、全然動けなくなった。それが、プラス3キロ。3キロ違うと全然動けない」。
イチローにとって大事なのはむやみやたらに体を大きくすることではなく、いかに体を使いこなすか、効率よく無駄なく美しく活用するか、なのだ。
■僕ほど恵まれている選手はいない
同様に、『イチローの流儀』(小西慶三/新潮社)では、イチローのこんなコメントも紹介されている。
「体を自由に動かしたり、操ったりという定義なら僕ほど恵まれている選手はいないと思います。結局、こちら(メジャー)には体は大きいのに走れないとか筋肉が邪魔してスピーディに動けないとかいう選手もいっぱいいる。体が大きい方が打球がよく飛ぶ、という次元の話ではあまりにも内容が薄いし、そこに僕は当てはまらない。体が大きいことで疲れやすかったりすることも事実あるわけでね」。
「例えば、太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)やふくらはぎを大きくするとスピードは出なくなる。スピードを維持しようと思うなら、太ももの裏側を鍛えて、ふくらはぎは太くしてはいけない」。
体重増ではなく、体の使い方を磨き上げ、自身のセンサーを研ぎ澄ますことで長く一流であり続けるイチロー。かたや、体重増でパフォーマンス向上を目指すニューウェーブたち。
もちろん、ダルビッシュや大谷はイチローよりも身長が10センチ以上大きく、骨格も日本人離れしているからこそ、体重増にも耐えうることができる、という可能性は高い。また、大谷の場合は100キロオーバーした後、キャンプで2〜3キロ落としてシーズンに臨む計画があるというから、肉体改造もまだまだ途中段階だ。
「ケガの予防」という観点でみれば、大谷は並外れた柔軟性を持ち、一方のイチローは昔から股関節が固いために「体重増」という負荷を避けている、という見方もできるだろう。
「体重増」「巨大化」が正義なのかどうか。それは今季の彼らの活躍と、向こう10年に渡って安定した成績が収められるかどうかにもかかっている。長い目で見守っていきたい。
文=オグマナオト(おぐま・なおと)
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