少年ジャンプで連載打ち切り『バディストライク』最終回が話題に
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漫画
今週号の週刊少年ジャンプ(10号)で打ち切り終了となった野球漫画『バディストライク』が、最終話ではっちゃけたことがほんの少しだけ話題となっています。
■イロモノが大挙して登場する最終回が話題に
本作はノーコンピッチャーの主人公と、死神と呼ばれるキャッチャーが出会って野球を頑張るお話。で、今回プチ話題となったのが最終話の11話です。それまでは概ね普通に野球をやっていたこの漫画ですが、最終話には、
「走らずして塁を盗む 盗塁の鬼才「瞬間移動」日雀隼人」
「全てのボールを素手でとるショート「グローブは枷」八象慶司」
「守備範囲最大級「守護神」丸岡亀吉」
「ボールを粉砕する強振「爆砕安打」真島掛虎」
などのイロモノキャラが大挙して登場。「主人公は140kmの速球が投げれるからスゴイ」という世界観だったのが、最後は「衝撃波でホームランを阻止する」漫画になってしまいました。
この展開に読者の反応は賛否両論。「今週のジャンプで一番笑った」「この漫画を読んでて初めて面白いと思った」と言った肯定的意見もあれば、「滑ってた」「ただの自暴自棄」「ふてくされるのはファンに失礼」と言った否定意見も。
ただ、僕もかつて『よいこの君主論』という漫画作品で似たようなことをしたので、作者のKAITO先生の気持ちは分かるような気がします。おそらくですけど、自暴自棄とか、ふてくされてるとかではなくて、もうちょっとポジティブな気持ちなんですよね。自分の経験から推し量るに、たぶんこんな理由ではないかな、と思います。
1. なにかしら爪痕を残したい
クリエイターにとって一番悲しいのは、自分の作品が誰からの評価も得られないことです。全く無反応なくらいなら、なんでもいいから何か騒がれたい。「あの漫画、最終回だけなんかおかしかったよな」「あんなの初めて見たぜ」とか、なんかそういう評価でもいいから後々まで語り継がれたい。そんな気持ちになるものです。ジャンプの打ち切り漫画では『タカヤ 夜明けの炎刃王』の「よっしゃあああツッ!THE ENDォォ!!」などはしっかりと爪痕を残しましたし、こういう存在になりたいという気持ちは結構分かります。
2. ワンチャン売れるのではないか? という希望
人気のない漫画というのは、面白い、面白くない以前にとにかく読んでもらえません。最後になんかスゴイことをやれば、それが話題になってそこだけを目当てにコミックスを買ってもらえるのでは? その結果、最後以外のところもついでに読まれて、ワンチャン好きになってもらえるのでは? そこから口コミで広がってワンチャン売れるのでは……?? という希望を抱いたりします。
3. 気分をアゲアゲにしたい
これはもう理屈ではなくて作り手側の感情なのですが、それまでの連載がいまいち上手くいかなかった、なんか窮屈だ、首を捻りながら描いてたなあ、と思っていると、気分が落ち込んでくるので、「よっしゃ、最後だしワーッと暴れて気分を爽快にしよう」という気持ちになってきます。これは一概に悪いことではなくて、メンタルは作品のテンションにも影響を及ぼすので、少し開放的な気分になることで、最終話単品で見ればクオリティが上がることも十分ありえます。……世界観の整合性を脇に置けば、の話ですが。
というわけで、今回のような最終回を描く精神性は個人的には非常に納得できるんですが、1〜3まで総じて言えるのは「これまでの作品の雰囲気が好きだった読者のことは考えてない」ということですね。まあ、打ち切りって失職と同じですから、実際、打ち切られる立場になるとそういうこと考えてられなくなるんですが。
ですが、今回の『バディストライク』の最終回ネタはまだインパクト不足だと思います。この手のやつだと最近では『LIGHT WING』というジャンプの打ち切り漫画が似た方向性で高レベルなことをやったので、それもあって爪痕を残すにはやや厳しい気がします。
個人的にそれよりも気になるのは、最終回ではっちゃけておきながら、後半で不意に正気に戻ったかのような展開で締めたことでしょうか……。
この漫画は7話でよく分からない問題提起が始まり(「キャッチャーとは何だ」)、8話から10話まで回想を交えてその答えを探り、最終話でまとめる……という構造だったのですが、これが何が言いたいのか全然よく分かりません。たぶん「過去に囚われるな」とか「チームワークが大事」とか、そういうことなんじゃないかとは思うんですが、そもそも読んでる側としては過去に囚われてる気もしないし、チームワークを疎かにしているようにも見えないんですよね……。問題がないのに問題提起されてもな、という感じ。
「キャッチャーとは何だ」に対するハッキリした答えも作中で示されず、過去回想がこの答えにどう繋がっているのかもよく分からない。最終回のネタにはそれなりの爽快さがあったのですが、最後が結局この問題に立ち返った上に、やっぱりなんだかよく分からなくてフワフワしてるのでモヤモヤ感だけが残ってしまいました。
著者プロフィール
作家
架神恭介
広島県出身。早稲田大学第一文学部卒業。『戦闘破壊学園ダンゲロス』で第3回講談社BOX新人賞を受賞し、小説家デビュー。漫画原作や動画制作、パンクロックなど多岐に活動。近著に『ダンゲロス1969』(Kindle)