パクッた側がオリジナルを訴える?中国企業の“逆ギレ”事件簿

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中国企業の逆ギレ事件の数々 (C)孫向文/大洋図書
中国企業の逆ギレ事件の数々 (C)孫向文/大洋図書

 こんにちは、中国人漫画家の孫向文です。2016年6月17日、中国北京市の知的財産当局が米Apple社に対し「iPhone6」の販売停止を命じていたことが判明しました。理由は中国の電子機器メーカー「佰利公司」が、iPhone6のデザインは同社の発売するスマートフォンに酷似していると提訴したためで、現在Apple側は販売停止撤回を求めています。

■模倣した側がオリジナルを訴える“逆ギレ事件”

 iPhoneは発売当時から機種の基本デザインを踏襲しており、どちらがデザインを模倣したかは一目瞭然でしょう。しかもApple側が提示した比較画像を見ると、iPhone6と佰利公司製のスマートフォンは相違点が数多く存在し、提訴自体が無茶な言いがかりと言えます。

 そのため中国国内の世論も反佰利公司一色に染まっているかと思いきや、南シナ海問題などをめぐり最近の中国で反米感情が高まっていることを理由に、実際は中国の大半のメディアがApple側を批判しています。客観的事実より場当たり的な感情が優先されるのが中国の報道です。

 今回の件に限らず、中国ではアイディアを模倣した側によりオリジナル側が被害を受ける「逆ギレ事件」が以前より発生しています。過去の例をあげると、2004年に日本の双葉社が自社の漫画『クレヨンしんちゃん』のグッズを中国で販売したところ、「著作権違反」と判断され市場から撤去されるという事態が発生しました。その原因は以前から中国の企業が双葉社の許可を得ず『クレヨンしんちゃん』を商標登録していたためで、双葉社側は中国企業に対し損害賠償を求めました。

 日本製のスマートフォンは中国では高いシェアを持っていないため、今のところApple社のような事態は発生していません。しかし、自動車や家電製品、漫画やアニメのキャラクターなど現在の中国国内には日本製品が氾濫しています。中共政府主導による反日感情が蔓延する限り、類似の事態が発生する可能性は非常に高いと思います。

 Apple社の問題に対し中国国内では多くの世論が渦巻いています。中国のSNSやBBSを閲覧すると、「中国の恥だ!こんな会社さっさと潰れろ!」「また賠償金詐欺か」、「全然iPhoneと似てないじゃないか!」、「中国の裁判所は盗人を保護して、被害者を攻め立てた」、「佰利公司の訴えが認められたら、以前からパクリ疑惑が指摘されている『Xiaomi』や『HUAWEI』(いずれも中国企業)も外国企業を提訴しはじめるだろうね」、と事件を冷静に受け止め中国側の行為を批判する意見を多く確認しました。

 その一方、偏狭的な「愛国」層は「売国奴は黙っていろ!」「裁判所の判断は正しい。自国の会社を応援してなぜ悪い!」と「南シナ海でアメリカが制裁を行ったら同じような提訴を繰り返してやれ!」、「アメリカはスパイウェア内蔵の件で中国企業を提訴している。今回の件はその復讐だ」などとヒステリックな意見を書き込んでいました。

 日本で『中国のヤバい正体』(大洋図書刊)を発売して以降、僕の元には中国の商業関係者たちから様々な意見が寄せられています。僕が常日頃から中国の悪徳ビジネスを批判していることに対し、「孫は売国奴だ!いつも自国を批判している」という人は、おそらく佰利公司社や『クレヨンしんちゃん』問題の企業と同じく目先の利益だけしか目に見えていない悪徳商人でしょう。

 一方「私たちの商売はいつも中国で迫害されています。今後も批判活動を続けてください」といった意見を述べる人は、中国に公平なビジネス市場が誕生することを期待する誠実な商売人だと思います。

 理不尽な逆ギレ事件が頻発しているのが現在の中国ビジネスです。もし中国国内での商業展開を計画している方がおりましたら、版権管理には十分気をつけて下さい。

著者プロフィール

漫画家

孫向文

中華人民共和国浙江省杭州出身、漢族の31歳。20代半ばで中国の漫画賞を受賞し、プロ漫画家に。その傍ら、独学で日本語を学び、日本の某漫画誌の新人賞も受賞する。近著に『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)など。

(構成/亀谷哲弘)

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