田中角栄 日本が酔いしれた親分力(16)地方に賭ける6時間の熱弁 (2/2ページ)

アサ芸プラス

今度は通産大臣になり、工業の勉強をして、それがパーフェクトになったということだろう〉

 12月に入ると、田中によるレクチャーが始まった。開口一番の言葉は、これだった。

「自分は政治家になって以来、国土開発を手がけてきた。その最初が、道路の問題だった。都市集中、表日本集中の政治を、裏日本、北海道などにも恩典に浴すために道路財源の確保が問題だった」

 ここから日本列島改造が始まった。それからしばらくして舗装率は高まり、高速道路も建設され、空港もでき、港湾も整備されていく。この変化の様を、田中はとうとうと語った。

 田中は、国土開発に関する自分の考えを熱い口調で語った。

「高度成長時代は、東京へ、東京へ、という流れでやってきた。これを放任しておったら、日本はパンクしてしまう。その流れを180度変えて、地方への流れにしなければならない。地方に25万人程度の中核都市を作る。それこそが、日本の新しい生き残り戦略の最大ポイントだ。そのためには、地域にそれなりのインフラを整備しないといかん。新幹線鉄道網であり、交通道路網であり、航空路の整備に取り組む」

 田中は強調した。

「東京に一極集中されれば、地方はどんどん過疎になる。過疎になれば、ますますインフラ整備ができない。日本は、いびつな不均衡発展を遂げる。これはもう、大変なことになる。それを避けることを、今から計画的にやっていかないといけないんだ」

 口調は迫力を増した。

「東京にいれば、酔っぱらって具合が悪くなり、道端でひっくり返っても、すぐに救急車が来て助けてくれる。命に別状もない。同じことをインフラの整備されていない過疎地域でやったら、どうなるか。救急車の数も少なく、すぐには来られない。命を落としてしまう。同じ人間の命で、そういうことがあっていいのか! どこにいても、ちゃんと命が保証されるということでないと、いかんのではないか!」

 田中は、しだいに興奮してきた。

「日本海側は、裏日本と言われているが、そんな差別用語みたいなことを言うのはけしからん! 江戸時代以前の帆船だけしかない時代は、日本海側こそ、むしろ交通の要所だったんだ。太平洋側は、船が航行できない。蒸気船ができて初めて航行できるようになった。昔、立派に栄えたところが、今や裏日本と呼ばれ、過疎地域みたいな言い方をされるのはおかしい」

 ふと気がつけば、6時間が経過していた。あっという間の出来事だった。

作家:大下英治

「田中角栄 日本が酔いしれた親分力(16)地方に賭ける6時間の熱弁」のページです。デイリーニュースオンラインは、週刊アサヒ芸能 2016年 7/28号小長啓一大下英治田中角栄政治家社会などの最新ニュースを毎日配信しています。
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