トンデモ映像による陰謀論?中国共産党のメディア戦略とは
こんにちは、中国人漫画家の孫向文です。2016年8月1日、中国政府は人民解放軍成立記念日にあたるこの日に、中国最高人民検察院と共産主義青年団の公式アカウント上にプロパガンダ映像を公開しました。
■中共政府の露骨なプロパガンダ映像
プロパガンダ映像のタイトルは「カラー革命を警戒しよう!」というものでした。タイトルに記載された「カラー革命」とは、2000年代に欧州・中央アジアで発生した反共民主化革命の総称で、市民が特定の色をシンボルとして政府に立ち向かったことが名前の由来です。中華圏でも天安門事件、または台湾のひまわり学生運動や香港の雨傘運動など、近年に入ると反共運動が数度発生しましたが、今回のプロパガンダ映像はそれらの再発を警戒したものです。
「カラー革命を警戒しよう!」の内容を紹介すると、冒頭にイラク戦争やシリアの難民問題などを羅列し、「一般市民が警察や軍人に殴られている」などと、一連の中東の惨状はアメリカの横暴が原因であると印象付けました。
そして映像内では、アメリカは中国がイラクやシリアのような状態になることを企んでいるという陰謀論が語られました。更には、チベット独立運動、ウイグル民族問題、香港の学生運動、反中的な台湾の蔡英文政権など、中共政府に反する勢力は全て「アメリカの中華分裂勢力の影響だ!」と大げさな陰謀論を語ると同時に、欧米発祥の民主主義的な価値観は「中国人を洗脳した毒」と定義し、「中国の平和と安定を守るのは中共政府と人民解放軍」であると結論づけたのです。
その後は、尖閣諸島に侵入した中国の漁船が日本の海上保安庁の船舶に追尾される映像や、中国が乱開発を進める南シナ海問題に対する仲裁の映像を流し、「尖閣諸島や南沙諸島など、日本とアメリカは中国固有の領土を狙っている!我々は決して手放さない!」と、日米を敵対国とみなし自国民のナショナリズムをあおる「攘夷論」を唱えました。
映像がアップされた当日は、「微信」や「微博」などの中国内のSNS上に一斉に投稿、リツイートされ、コメント欄には賛美する言葉が連投されました。
これが中共中央宣伝部指示による「五毛党」(代金をもらって中共政府に有利な情報を書き連ねるネットユーザーの総称)の水軍(水増し工作員)の仕業であることは明らかです。コメントの一部には「bot」と呼ばれる自動的に言葉を書きこむコンピュータープログラムが使用されていたようです。
■メディアを利用し洗脳しようとする左派たち
今回の例のように、「共通の敵」を作り国民の意思を一体化させようとする方法は中共政府の常套手段です。そして、中共がやっきになってカラー革命を批判している理由は、民主化、自由を求め団結した時の人間の力を恐れているからでしょう。
僕が以前のコラム(中国は必ず民主化する?”天安門事件”記念集会に参加して分かったこと)で語ったように、中国の現体制を転覆させるための最良な手法は一般市民による非暴力的な民主化運動だと思います。僕は一人でも多くの中国国民が中共政府の欺瞞性を知り、立ち向かうための意思を持って欲しいと思います。
そして、プロパガンダを行うのは中共政府だけではありません。2016年8月3日、北朝鮮が事実上の弾道ミサイルを日本近海に発射した際、TwitterやFacebookには「人工衛星をミサイルと呼んでいる」、「支持率上昇のために、安倍と北朝鮮は裏で手を組んでいる」などと、次々と現政権を批判する言葉が書き込まれました。
さらにSEALDsなど市民団体は平均所得低下など、現政権の問題をSNS上に書き連ねる一方、雇用率低下や近隣諸国との関係悪化など、旧民主党政権時の問題については一切触れていません。
古くはチラシやラジオ、現在はインターネットを利用してプロパガンダ情報を公開するのは左派共通の手法のようです。僕は安易に洗脳されないために、日本のみなさんには確固たるメディアリテラシーを身につけていただきたいと思います。
著者プロフィール
漫画家
文・孫向文
※中華人民共和国浙江省杭州出身、漢族の31歳。20代半ばで中国の漫画賞を受賞し、プロ漫画家に。その傍ら、独学で日本語を学び、日本の某漫画誌の新人賞も受賞する。近著に『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)など。
(構成/亀谷哲弘)