演習は”尖閣奪還”を想定?中国人による自衛隊・総合火力演習レポート
こんにちは、中国人漫画家の孫向文です。
2016年8月25日、僕は静岡県の陸上自衛隊東富士演習場で実施された夜間総合火力演習を観覧しました。
■大人気の総合火力演習
総合火力演習は非常に人気の高いイベントで、観覧券の当選倍率は毎回20〜25倍程度になります。そのため観戦券はネットのオークションサイト上では法外な値段で販売され、「一度観覧した人は二度と応募するな。まだ見たことがない人にチケットを譲ろう」という呼びかける声があったほどです。
今回は陸上自衛隊関係者の方の協力により観覧する機会をいただきました。僕自身は自らのミリタリー嗜好と取材目的を兼ねて総合火力演習を観覧しました。
火力演習当日、僕と同行者は朝から自動車を利用して都内から演習場が存在する静岡県に向かいました。静岡県に訪れるのは初めてだったのですが、「タミヤ」、「ハセガワ」など世界的プラモデルメーカーの所在地、そして日本の象徴ともいうべき富士山が存在する場所として以前から注目していました。
僕たちは演習場に向かう途中、富士山山麓部を通過したのですが、山々が連なる光景はとても美しく、アニメ「アルプスの少女ハイジ」を連想しました。また空気も透き通っていて非常に爽快な気分になりました。
そして演習場に到着した時は、すでに夕刻にさしかかっていました。自動車から降りると砲撃の大きな爆音が耳に入り思わず驚愕しました。
観客席に着席すると目の前には「10式」、「90式」などの戦車部隊、戦闘ヘリ「AH-1S」、「87式自走高射機関砲」など、自衛隊が誇る兵器群が目に入りましたが、中でも戦車はその重量感、目標に対し砲撃した時の爆音や空気の振動、弾薬の匂いなど数十メートル先から見ても「これぞ兵器」ともいうべき強烈な存在感を放っており、十数台が並列し一斉砲撃を行う光景に僕は圧倒されました。
■学生たちは鉄の怪物に丸腰で立ち向かった
そして、戦車を見た時僕の脳裏には天安門事件の光景が浮かびました。事件当時、自国の民主化を求めた学生たちは鉄の怪物のような人民解放軍の戦車の前に丸腰で立ちふさがったのです。
僕は以前、当時の学生たちのリーダー的存在で、戦車から散布された毒性のガスを吸って気絶した女子学生を助けようとして戦車に両足を轢き潰された、「方政」という人物と対談を行ったことがあります。(デイリーニュースオンライン6月6日掲載)僕は戦車に立ち向かった当時の学生たちの心境を想像し恐怖を感じると同時に、彼らの勇敢さに大いなる敬意を表するのです。
時刻が夜間になると、照明弾やサーチライト、赤外線センサーを装備した兵器が登場し、その高性能ぶりをまざまざと見せつけられました。周囲は暗くなり、山間の土地であるため真夏にもかかわらず肌寒さを感じるほどで、寒空の中に浮かぶ富士山のシルエットや満天の星空など都心では味わえない絶景を楽しみました。
僕は美しい富士の光景を見て、総合火力演習はカップルのデートにも適切な場所だと思いました。僕と同行者は自衛隊の最新兵器群と美しい風景を堪能し、大満足して帰路につきました。
今回の演習では「離島作戦」というテーマが掲げられ、日本領の離島が外国に軍事的に占拠された時の奪還、そして海上から攻めてくる敵軍に対しての追撃がシミュレートされていました。これが中国によって尖閣諸島が占拠された時を想定したものであることは明らかです。僕は自衛隊の危機管理能力の高さに感心すると同時に、上述のような事態が発生する可能性が高まっていることを実感したのです。
中国人民解放軍は中共政府のために「自国民を攻撃」しましたが、自衛隊員は日本の領土、領海、そして「自国民を防衛」するために存在する組織です。ほとんどの日本人は自国が戦争に巻き込まれることに反対するでしょうが、それでも国防のためにはある程度の武力が必要です。僕は今回の演習を見て、日本の平和維持のためには自衛隊の存在、そして安保改正による集団的自衛権やPKO法案改定が絶対に必要なものであると改めて思いました。
著者プロフィール
漫画家
孫向文
中華人民共和国浙江省杭州出身、漢族の31歳。20代半ばで中国の漫画賞を受賞し、プロ漫画家に。その傍ら、独学で日本語を学び、日本の某漫画誌の新人賞も受賞する。近著に『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)など。
(構成/亀谷哲弘)