能年玲奈「のん」騒動にアニメ作品「この世界の片隅に」が引っ張られている件|やまもといちろうコラム
山本一郎(やまもといちろう)です。改名したいのはやまやまですが、なんだかんだで自分の名前などどうでも良くなっている自分の精神の太さに驚愕です。
ところで、先般の能年玲奈(23)の大手芸能事務所「レプロエンタテインメント」契約解除騒動と、それにまつわる改名や仕事についてのあれこれは相変わらず話題になっているようです。一連の問題は、本人にとっても事務所にとっても不幸なことだと思いますが、ことの詳細はノンフィクションライターの田崎健太さんが決定版ともいえる記事を書いておられたのでご参照ください。
個人的には、『週刊文春』(文藝春秋)が能年玲奈側に立ちレプロ側の言い分を丸ごと落として報じたため、一方的に「芸能界コワイ」という話になってしまいました。その結果、今回のように能年玲奈干され騒動に発展したのも宜なるかなと思う次第であります。もちろん、あの段階ではレプロもあまり積極的に取材に応じていなかったこともあり、能年玲奈かわいそうという話に世間が流れるのも仕方がないのかなと思うところはあります。
ぶっちゃけ、能年玲奈は若くして芸能界で成功をし、これから頑張っていこうという矢先の出来事で、芸能事務所も営業をするにあたって独立騒動を起こしたからには「ほかのタレントに示しがつかない」とか「過去に培った実績や信頼で取れている仕事を自分だけの実力だと勘違いされてはたまらない」という事情から、事務所として強く出ざるを得ない事情はあるのでしょう。また、一部報道にもあった通り、能年玲奈が特定の女性や弁護士に「洗脳」されたというような派手な話はないにせよ、一般的な業務で「弁護士を通さなければ話が進まない」あるいは「信頼回復のための一対一の話し合いの場に応じない・出てこない」のでは、事務所としても能年玲奈を営業することはできないでしょう。
今年は特に、ベッキー(32)騒動やSMAP解散などもあり、芸能とビジネスの間の難しさは特に知られるようになりました。いまも、ジャニーズ事務所が自社のコンサートのチケット流通を巡ってmixi傘下の大手チケット仲介のチケットキャンプに騒動を仕掛けるという話も出てきています。いままで以上に、芸能を含むエンターテイメントとマネジメントをする事務所の関係は複雑になってきていると言えます。
■能年玲奈にはリスクが付きまとう
これらの騒動の何が問題かといえば、要は「芸能人はイメージを売る仕事」であり「契約期間は長期に渡るため、何かあれば損害賠償に簡単に発展するリスクを事務所は伴う」ということでもあります。ベッキーでいえば、ゲスの極み乙女。のボーカル・川谷絵音(27)との不倫騒動で広告にてキャラクター起用されていた企業から契約の解除だけでなく損害賠償を求められ、一説には3億円を超える(仕事内容の割に)巨額な費用負担を所属事務所のサンミュージックが負担した、という事例があります。能年玲奈が若く社会常識がまだまだこれから身につく歳であるとはいえ、芸能人として一番大事な20歳前後の時期に大口の映画やドラマ、広告キャラクターで本人の独立問題や騒動があれば、それは事務所として「いくらいま人気があっても能年玲奈は売ることそのものがリスクになる」と考えても不思議はないでしょう。
その後、この独立騒動もあったため、今回『この世界の片隅に』の主人公担当の声優として熱演をふるった能年玲奈について、テレビで報じられない、これは事務所の圧力があったからだぐらいの話題が乱舞するわけです。また、オフレコと称して先日この映画の関係者が揃って新宿ロフトプラスワンで「ぶっちゃけ話」をしたようですが、実際にキー局を含めたテレビ局の側から言うと、レプロの誰からも、何の圧力も現場にかかってません。また、大手事務所への配慮がどうという話があるようですが、封切りの時点では何もなかったようで、ただ能年玲奈が「のん」への改名騒動もあったため、わざわざそのネタに絡めて声優としての出演映画の宣伝をするのも筋が悪いという程度の認識しかなさそうでした。そもそも配給会社からも制作からも、これといった営業が来ていない状態です。
で、話題になっているので取材依頼をかけると「監督は呉にいるので、すぐには対応できません」と言われてしまったとのことで、宣伝の側からするとどうもなあ、と思うわけであります。こういう状況であるならば、せいぜい映画ランキングの中で「『この世界の片隅に』は健闘してますね」ぐらいの話しかできません。
熱心なファンによる「テレビ局が取り上げない」という俗にいうマスゴミ批判は、一面ではそれだけ熱量があるのだという反面、低予算アニメ映画がテレビ局の取り上げたくなるような内容で営業に来ることの大事さという観点を欠落させます。せっかく盛り上がっているのに、その程度のネタがメインに来るようでは局地的なブームで終わってしまいかねません。改名騒動を起こした以上、あの能年玲奈が主人公の声優として熱演、という取り上げ方は確かに配慮は要るでしょうが、映画として面白い、健闘しているというセールスぐらいはあって然るべきだと思います。実際、テレビ局やラジオなどは、ぼちぼち取材依頼しているでしょうし、能年玲奈ファンのいる岩手県でも公開日は特集をしており、また低予算映画の割にそれなりにメディアでも取り上げられています。
ただ、せっかく面白い映画だと話題にされる割に、いつまでも能年玲奈の独立騒動とセットで語られる程度の話題性でしか話が出ないようだともったいないことでしょうし、本人の今後の活動にもプラスになるはずもありません。テレビで取り上げられなかったのは、能年玲奈の独立騒動でタブーになっていたからだけではなく、映画が始まりますという営業が来てないからです。なので、ちゃんとこの映画の面白さが話題になり、盛り上がっているいまこそ、何か適当なオフレコ話を他所でするより、ちゃんと界隈に詳しい人を営業で雇ってセールスキット作ってメディア訪問したほうがよほど良いのではないかと感じます。
蛇足ですが、なぜか配給元のテアトル東京が仕掛け人となって「この映画の監督さんを海外へ連れて行こう」とクラウドファンディングが立ち上がり、草の根感を強調するようなムーブメントが起きてます。これはこれで、映画ファンや支持したいという熱量を受け止めるのには素晴らしい仕組みだと思う一方、ビジネスのサイズとして千万単位というのはいかにも小さすぎます。能年玲奈もさることながら、周囲にまともな大人がいないのかと心配してしまう典型的な事例になっているので、ぜひクールジャパン的なアプローチでもう少し背伸びしてもらえると三方良しでみんなハッピーな感じがします。
どうせ良いものを作って人気になっているのであれば、ちゃんとやればいいのに、と思った次第でございます、はい。
著者プロフィール
ブロガー/個人投資家
やまもといちろう
慶應義塾大学卒業。会社経営の傍ら、作家、ブロガーとしても活躍。著書に『ネット右翼の矛盾 憂国が招く「亡国」』(宝島社新書)など多数
公式サイト/やまもといちろうBLOG(ブログ)
やまもと氏がホストを務めるオンラインサロン/デイリーニュースオンライン presents 世の中のミカタ総研