吉田豪インタビュー企画:ウーマンラッシュアワー村本大輔「全員から嫌われても変えられないものがある」(3)
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プロインタビュアーの吉田豪が注目の人にガチンコ取材を挑むロングインタビュー企画。人気お笑いコンビ、ウーマンラッシュアワーの村本大輔さんをゲストに迎えたインタビューも今回でラストとなります。嫌われても自分を曲げず、自分の言いたいことを言う村本さん。本音を言い続けようとすると、大変なことが色々とあるようです。
吉田豪インタビュー企画:ウーマンラッシュアワー・村本大輔 「日本のお笑いをカッコいいと思わなくなった」(2)
■自分の責任で言いたいことを言いたい
──ボク、西野(亮廣、キングコング)さんと揉めたことがあって。
村本 ああ、電車のつり革?
──そんなこともありましたけど、もともとラジオでボクが言った話がきっかけでちょっと揉めて、「吉田豪、蹴とばす」とか言われてた時期が10年ぐらい前にあったんですよ。その後、ふたりでイベントやったんですけど、ホントに受身の取り方がうまくて、ちゃんとスイングするんですよ。
村本 別人になりますもんね。
──別人ですね。ネット上の融通の効かない感じとは違って、ちゃんと両者の違いを際立たせてくれるんですよ。
村本 笑うし、笑わすし。
──イラついてウロつき回ったりとかしながら。
村本 そうそうそう。ああいうところがほんまに嫌いなんですよ。
──ダハハハハ! そうなんですか(笑)。
村本 この前の『ワイドナショー』の茂木健一郎さんも、松本(人志、ダウンタウン)さんに全力で「いや、お笑い大好きで」とか「大ファンだから言わせてもらったんですよ」とか言ってて。「茂木さんおもしろくないよ」って言われたら、「ちょっと待ってくださいよ! それが一番傷つくんですよ!」とか言ってて。それよりも本題の日本のコメディアンの性質とかの話しろよと思って。終始そういう西野みたいな感じで。だから西野は茂木健一郎さんなんですよ。ズルいんですよ、ああいうときになったら闘わないんですよ。
──ああいうときに嫌われない、うまいやり方ができる。
村本 それがほんまのエンターテインメントかなとも思うし。テレビってプロレスってみんな言うじゃないですか。プロレスって何がプロレスなのかっていうのがわからなくて。勝手にみんな「相手がおいしくなること」とか言うけど、そこで本音とか言えなかったら意味ないと思うし。そういうのが多いんですよね。
──プロレスにも幅がありますからね。ホントにほぼ闘いのプロレスもあれば、すべてが決まってるプロレスもあって。
村本 そっか……。
──吉本芸人同士の絡みだと全部予定調和な感じのプロレスに見えちゃうけど、じつはそうでもなくて緊張感だらけってこともあるわけじゃないですか。
村本 うん、たしかに。でも、「相手がおいしくなって初めて毒舌だ」とか、「関係性があって初めて相手の悪口を言える」とか、「まずは一本電話を入れて『明日言わせてもらいます、よろしくお願いします』って言わなあかん」とか言われるんですよ。それ誰が決めたん? だからそれ、太田(光、爆笑問題)さんに相談しに行ったことあるんですよ。
──本人に許可を取らないでもいいか、と。
村本 許可を取る前に、いろんな芸人に「これおもしろくないですか?」って聞いたら、「なんだおまえそれ、大丈夫か?」って。ある先輩は「俺はかわいがってもらってるから。もしその人が嫌な気持ちになったら俺は許さねえからな」って言われたり。でも、おもしろいやんと思って。
──ちゃんとちゃんとおもしろくなればいいはずなんですけどね。
村本 自分の責任で言うし、いいやんと思って。でも、いろんな吉本の芸人に止めらたんです。「関係性があるから怖いなあ」とかみんな言うんですよ。で、太田さんの楽屋に行って、「これちょっと言おうと思うんですよ」って相談したら、「そんなことを相談するぐらいだったらそういうキャラやめろ」「これ言っていいですか? とかいらねえんだよ。終わったあとにすみませんでしたとか言わなくていいんだよ」って言われて、たしかになと思って。べつにこの人らに認められたくてお笑いやってるわけじゃないし、自分が皮肉りたいと思ったら俺の責任で言うんやから俺に言わせろよってたしかに思って、そこからは楽屋とかで「これ言わせてもらいます」って一切言わずにそういうこと言い出したんですよ。ほんならみんなから嫌われました。
■全員から嫌われても変えられないものがある
──なるほど! 太田さんはなんでも言っちゃいますけど、あの人は芸人仲間とのプライベートの横のつながりがない人じゃないですか。だから成立してると思うんですよ。仕事が終わればまっすぐ家に帰る人だから。
村本 だからいいなと思って。太田さんと、あとメッセンジャーの黒田さんは「べつに人に嫌われても返しがうまかったら芸人はそれでいい」って言ってる人で。太田さんは衝動というか、そういう感じでお笑いやりたいってことだから。太田さんのそういうところと、あと岡本太郎とか、そういうのは好きですね。
──太田さんはあきらかにストッパーないですもんね。頭おかしいと思うこと、何度もありましたもん。その単語、絶対出しちゃいけないヤツっていうのをふつうに出すじゃないですか。触れたらいけないと言われたら余計に触れたくなる病なんだと思いますけど(笑)。
村本 触れたらあかん人間っているのか?と。そういうのがあるみたいなんですけど、それが気になるんですよね。「それ触れたらあかんやろ」とか「かわいそうやろ」とかって、それがかわいそうなんじゃないかって思うことがよくあって。触れたらあかんって、その人に対してすごく失礼な気がして。
──『土曜The NIGHT』は完全にそこと闘ってる感じですもんね。そう言われそうな人をどんどん呼んできて。
村本 そうなんですよ。
──人から止められると反発するというか、「とりあえず会ってみないとわかんないじゃないか」って人ですよね。
村本 そう。AbemaTVもヨッピーさん(WEBライター)がゲストのとき、キュレーションサイトのことでなんかあったんですよね。
──サイバーエージェントも含めたキュレーションメディア批判部分が、いつもフルでアップされているYouTubeの動画から初めてカットになって。
村本 そうそう、カットされたから、次の放送で「あそこカットしやがって」って言ってやって。
──そもそもカットされてたって拡散したのボクでしたから(笑)。
村本 それも全部楽しんだらいいのに、日本って楽しまないんですよ。
──わかります。触れちゃダメっていうのが一番気持ち悪いですよね。
村本 それを芸人が言うんですよ。そのくせ弱い人にはとことんいく。8人が殴っていいよって言ったら殴るのが芸人なんですよ。それが気持ち悪いんです。8人が殴ったらあかんって言ったら、ひとりでも殴ったら「殴ったらあかんやろ!」って言うんですよ、特に芸人は。他事務所の人はそんなことなかったりするし、「おもしろいな」とか言ってくれるんです。「そのままいけ」とか。でも、吉本の一部は……。
──先輩を何度か怒らせてきたけれど、もう気にしないってことですか。
村本 言いたいこと言って、それで全員から嫌われたら嫌われたで……それは変わらないですね。あと、「テレビを変えてくれ」とかたまに言う人いますけど、僕はテレビとか『土曜The NIGHT』とかラジオとか周りの芸人とか友達とか、すべてに変えられないようにするっていうのが自分のテーマであって。テレビに出るからテレビ仕様とかってなりますけど、すべては変えられないというか、ずっと自分は持っておきたいというか、そういう頑固なところが常にありますね。あと変えられないし。西野もたぶん、雛壇をやらないんじゃなくてできないんですよ。それを理由つけていいほうに持ってってるんですよね。できないものを無理やりやるのは、VTR明けの一言で、この世代で(博多)大吉さんとかに勝てるはずないし。だったら自分が勝てるところで、それが漫才なのかスタンダップコメディなのか、そういう姿勢でネタをやるのかはわからないですけど、自分らしいものしかやりたくないっていうのはありますね。
■僕の小バエのような小さな羽をむしるのは、ちょっと待て
──この企画、前に爆笑の太田さんにも出てもらったんですけど、絶対オフレコって言われたエピソードは完全にどうかしてましたね。具体的に言うと……(以下略)。
村本 えぇーっ!?
──それで干されるのを覚悟してたら大丈夫だった、みたいな。
村本 ……太田さんは芸能界が大好きなんですかね、そんな感じがしますね。
──村本さんはそんなに好きじゃないんですか?
村本 芸能界のそういうところが大嫌いですね。
──余計なしがらみというか。
村本 余計なしがらみというか……。僕が芸能界にとって恐ろしい存在であれば、僕の羽をもいでもいいですけど、僕の小バエのような小さな羽を全力で大人たちがむしりに来るのは、ちょっと待ってくれ、と。
──ダハハハハ! 敵として小さすぎるのに(笑)。
村本 そういうの気持ち悪いんですよ。
──だったら小バエなりの闘い方をしてやろう、と。
村本 そうなんですよね。『土曜The NIGHT』と『AbemaPrime』は好きに言えるんでいいですよね。
──ちなみに、これはネットサイトでのインタビューなんですけど、ネットニュースについてはどういうふうに思ってます?
村本 ネットニュースもテレビのニュースも、全部本当の真実を教えたいからあるわけじゃなくて、エンターテインメントというか。クリックしてほしいからやってるわけじゃないですか。それってお笑いもそうやし。『すべらない話』のエピソードトークなんかもだいぶ盛ってしゃべるし、みんな絶対に引きのあること言ったりする。それと同じで、要はそれを本気で自分の情報として目に入れて100パー信じるヤツが一番悪いなと思ってるんですよ。最近、ドラマの悪役の俳優さんがTwitterで、「なんでドラマのなかであんなこと言うんですか?」とか言われてて。バラエティではありましたけど、映画とか悪役の人まで演じていることをそのまま信じるヤツがいて。全部鵜呑みにしてて。
──昔からありましたよね、ドラマで嫌な役やるとホントに嫌われて叩かれたりとか。
村本 そういうヤツがいるんですよ。ネットニュース自体には何も思わないですね、コメント欄とかも。
──コメント欄はビックリするぐらいレベル低いですけどね。
村本 だから、それを信じるヤツに言いたいことはいっぱいありますよ。こんなに情報が山ほどあるなかで、誰が書いたかわからんもんを時間を使って読んで信じるな、と。全部都市伝説ぐらいに思っておけばいいのに、ほんまの話のように全部信じるでしょ。タダで手に入れてるくせに、のさばり消費者発見器みたいなところがありますよね。よく記事にしてくれてありがとうございますとは思いますけど。もうちょっと質の高い記事を書いてほしいなとは思いますね。ひどいヤツいるじゃないですか。名前を間違ってるとか、そういうのはどうかなと思いますけど。そこはちゃんと書いてくれと思いますけどね。でも信じるヤツはちゃんと情報選べよって。
──情報をいくつか集めてそれを立体的にするべきであって、1個だけで反応するのはまだ早いってことですよね。
村本 で、そこまで興味あるか? っていう。
──「よく知らないけど」でコメントする人の多さは嫌になりますよね。
村本 タイトルだけで反応したりとか。そういうのは、読んだほうに非があるんだろうなと思いますけど。でも、それくらいですね。
■「沖縄のサンゴと俺のトークは外に出すな」
──そんなに怒ってはいなかったんですね。
村本 ラジオやってるときは、ここだけの秘密の話で毎回、「沖縄のサンゴと俺のトークは外に出すな。保護しろ」って言ってたんですけど、それがまた火種になって、芸人がそれを信じるんですよ。「ネットニュース見たで。おまえ、こうらしいな」とか。「いやいや、ちゃんとソースを確認せえよ」と。
──せめて元の音源聴いてくださいっていう。
村本 元の音源も聴かずに、ネットニュースを見たヤツの話を聞いて言ってきたりするんですよ。そういうのにみんなが惑わされてるけど、酒と一緒で酔うなら飲むなって、自分をちゃんと保てる人間だけ酒で遊べばいいのに。「岡村(隆史、ナインティナイン)さんは昔ラジオで織田裕二さんの悪口言ってたじゃないですか」って言ったら、「俺はあれ本気で言ってないねん」とか言ってましたけど。でも、それが広がっても気にしなくなったとこありますね。そういうヤツを信じるヤツが悪い。「俺のこと好きやったら直接聞きに来い」って言っても、聞きにも来んでNGとか、もう無理っていうんやったらそこまでしか好きじゃなかったんだからええよという。
──イベントとかで「ここだけの話」「ノーツイート」とかは通用しますけど、ラジオは難しいでしょうね。
村本 難しいですね。ラジオこそライブに来られない人が、深夜にヒソヒソ話聴いてる感覚でいられるのに。『土曜The NIGHT』はネットニュースになりにくいんですよね、同じようなこと話しててもなぜか。『Abema Times』っていうのがあるんですけど、そっちにもほとんど載らないですね。……でも全部ただの言い訳かもわかんないですね。本を読まないのも勝手に正論っぽいこと言ってるだけなんで。ただ言い訳を作ってるだけかもわかんないです。
──とりあえず、村本さんがいま何を考えてるかはよくわかりました。
村本 太田さんこそ『土曜The NIGHT』で茂木さんと話してほしかったんですけどね。一応太田さんの奥さんにDMは送ったんですけど、「翌朝『サンジャポ』があるから」って言われて。
──『爆笑問題カーボーイ』での太田さんの茂木さんへの反論もおもしろかったですからね。
村本 直接しゃべったらいいのにね。まあ、茂木さんはいざ目の前にすると全然ダメなんですけど(笑)。
プロフィール
ウーマンラッシュアワー
村本大輔
村本大輔(むらもとだいすけ):1980年、福井県出身。様々なコンビを経て、2008年に中川パラダイスとお笑いコンビ「ウーマンラッシュアワー」を結成。2013年にはTHE MANZAIで優勝する。個人でも幅広く活動し、2015~2016年にはラジオ『ウーマンラッシュアワー村本大輔のオールナイトニッポン』のパーソナリティを務め、現在Web番組AbemaTV『ウーマンラッシュアワー村本大輔の土曜The NIGHT』、『Abema Prime』(https://abema.tv/)のMCを務めている。ソロライブ『ウーマンラッシュアワー村本の大演説』を全国で開催しており、7/2(日)には大阪・なんばグランド花月にて開催する。
プロフィール
プロインタビュアー
吉田豪
吉田豪(よしだごう):1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。徹底した事前調査をもとにしたインタビューに定評があり、『男気万字固め』、『人間コク宝』シリーズ、『サブカル・スーパースター鬱伝』『吉田豪の空手★バカ一代』などインタビュー集を多数手がけている。コラム集『聞き出す力』『続 聞き出す力』も話題を呼んだ。
(取材・文/吉田豪)