夏の甲子園「舞台裏」③ 高校野球が郷土対抗ではなくなる日 (2/2ページ)

リアルライブ

野球以外、何もすることがないってくらいの」

 硬式野球クラブの盛んな大阪の中学生が北海道、東北、九州などの全寮制の高校野球部に進むのはそのせいだろう。

 また、学校側も「知名度を上げるチャンス」とし、野球部の強化に力を入れているところも多い。2000年代前半、かつての女子校が少子化対策で男女共学となったが、同時に有名指導者を招いていた。四国の某私立校を取材した際、その学校経営者は変更した学校名を浸透させるにあたって、「いちばん効果的なのは、野球部とサッカー部が全国大会に出場すること」とはっきり言い切っていた。

 「高校野球は来年、100回目の夏の大会を迎えますが、時代とともに変貌したところもあります。スタンドの応援、金属バット、そして、昨今検討がされているタイブレーク制です」(関東圏私立校指導者)

 タイブレーク制の導入もそうだが、通信制の高校が甲子園出場を果たしたのは衝撃的だった。センバツだが、84回大会(12年)、地球環境高校(長野県)が代表に春夏通じて初めて「通信制の代表校」となった。同校野球部員25人(当時)は寮生活で、学校側は“野球漬け”ではない指導を強調していた。昨夏、北北海道代表として、同じく通信制のクラーク国際高校が勝ち上がり、「創部3年」なる急成長ぶりにも驚かされた。

 インターネットの普及により、学校教育の在り方も変わりつつある。少子化対策にしても、公立、私立を問わず、生徒数を確保するため、教育プログラムに特徴を付けるなどし、どの高校も生き残りに必死だ。そう考えると、高校野球は“郷土対抗”を維持できなくなるかもしれない。

 試合の前後、両チームがホームベースを挟んで『整列、礼』をする。この儀式は小・中学校、大学、社会人はもちろん、草野球でも当たり前のように行われているが、実は、高校野球が発案提唱したものなのだ。

 明治後半から大正時代に掛け、野球競技を批判的に捉える国民も多かった。この風潮を変えなければならないと思った当時の野球大会運営者が、「野球は教育の一環」を観る者に印象づけるため、『整列、礼』を始めさせたという。こちらは永遠に変わらないだろう。変わるところと変わらないところ…。高校野球は時代を映す鏡でもあるようだ。

(了/スポーツライター・飯山満)

「夏の甲子園「舞台裏」③ 高校野球が郷土対抗ではなくなる日」のページです。デイリーニュースオンラインは、スポーツなどの最新ニュースを毎日配信しています。
ページの先頭へ戻る