「米朝」戦争と「奇襲解散」選挙にまつわるエトセトラ|やまもといちろうコラム

デイリーニュースオンライン

Photo by schmollmolch(写真はイメージです)
Photo by schmollmolch(写真はイメージです)

 山本一郎(やまもといちろう)です。ちょっと気後れしていた晩夏のショートステイの訪欧、訪露出張がぶっ飛んで逆に気楽になりましたとさ。

 直接の関係は無いまでも、日本のメディアではあまり語られないアメリカと北朝鮮の応酬はかなり危機的な状況にも見えますし、この東アジアの緊張を単なる米中対立の文脈で見るだけでは読み違える部分はあるのかもしれません。というのも、北朝鮮もなかなか風変わりな頭領を抱えていますが、アメリカも実にアレな大統領ではないかと見られるわけであります。

 いわゆる挑発ゲームでは終わらないかもしれないという懸念はすでにCNNをはじめとした米欧のメディアだけではなく、北朝鮮問題ではアメリカの先制攻撃も北朝鮮ミサイルのグアム近海への打ち込みもあり得るという前提でチキンレースの態になっているのは、「対話の時期は過ぎた」とするアメリカ外交の中国への失望感がバックボーンにあります。ある意味で、ドナルド・トランプ大統領(71)が北朝鮮攻撃については前のめりで、ホワイトハウスの各要人がむしろ大統領の闘争心を冷まそうとしているとすら見える状況です。

 それでも、アメリカは恐らくは北朝鮮直接攻撃や上陸作戦を前提とした2泊の演習を行う一方、中国もアメリカのこうした姿勢について牽制する発表はしつつ、静観の構えを取っているのは印象的です。水面下では、アメリカ大統領府よりも議会筋が中国の経済活動飲む規則な拡大に懸念を示し、欧州を抱き込んで対中貿易戦争を仕掛けようというようなそぶりも見えます。単純に米朝戦争の前触れというよりは、米中対立の枠組みを超えて拡大する中国に対する牽制を北朝鮮有事の演出を行いながら精いっぱいやっている、という印象です。

 おそらくは、トランプ大統領自身はさしたる戦略も持たず、ものすごい構想を実現しようと執念に燃えているというわけでもなさそうです。むしろ、純粋に力による現状変更は許さない、と力こぶを魅せようと北朝鮮有事を具に内外に示すということぐらいしか考えていないのではないか、と思います。

 これらの東アジアの混乱で一番利得があるのはロシアや一部のASEAN諸国なのでしょうが、このアメリカが繰り広げる恫喝は中国と歩様を揃えるべきか悩むベトナムやインドネシアなどの国々においては悩ましい判断を迫られることになります。同様に、中国との外交や防疫の恩恵に預かるEUも、東アジアの混乱は中長期には景気の低迷を呼び起こす可能性もあり、カナダやオーストラリアのように能天気に「我々はアメリカとともにある」とは言いづらい状況に陥ることも考えられます。

■キーとなる政党は

 アメリカにとっては、成長しすぎて党勢の利かなくなった中国、彼らに蚕食されかねない世界経済、金融をアメリカのコントロール下に取り戻すという発想がどこかにあり、また中国は東アジアは自分たちの権益であるという中国版モンロー主義的なバックボーンが形成されていてもおかしくはありません。しかしながら、航空宇宙からサイバー空間まで、中国の野心的な伸びはアメリカを凌ぐ状況になりかねない中で、アメリカが威信をかけて取り組むカードのひとつが北朝鮮問題であると見るならば「戦略なきトランプ大統領」の妄動とも言える挑発外交もひとつのベクトルが見えてきます。一口に読みづらいトランプ外交が「駄目だ」「最悪だ」と切って取るよりも、彼の本来の意志がかなり本気の「アメリカの国威を取り戻すことにある」と考えれば多くの事象を理解するのに役に立つ補助線となるのではないかと思います。

 日本においては、リージョナルパワー、すなわち東アジアのプレイヤーの一人としてアメリカの同盟国というポジションでの関わりになります。それ以上でもそれ以下でもありません。現段階でアメリカ、韓国とともにオペレーションの具になる、政治的に可能な限りアメリカの支援に回るという選択肢以外、現実には残されていません。それ以外の行動を考えるという野心的な動きもなければ戦略的な余裕も残されていないというのが実情です。ゆるゆると国力を衰退させながら、可能な限りアメリカとともに行動して良いポジションを築く以上の利得がないため、せいぜいほんのりロシアと手を組んだり、中国のコントロール下に行きそうなASEAN諸国をアメリカ陣営に引き込もうとしたり、危機感を逆手にとって改革を進めてサイバー空間での権益や防衛力の確保に動く以上の何かは特にできないでしょう。

 本当の危機に陥るようであれば、安保法制や憲法改正と言ったある種のタカ派的アプローチを実行に移す非常に重要な転機になるのは間違いありません。有事の頃合いを見越して解散総選挙に打って出るとするならば、やはり早期解散論で取り沙汰される9月22日解散10月22日投開票という筋道が見えてくるのかもしれません。それが日本人にとって本当に良い選択なのかは分かりませんが、安倍政権は土俵際まで追い詰められてこそ良い相撲の取れる、地力と幸運に満ちた政権のようにも見えます。本当に何か困ったことがあると、何の巡り合わせか政権の能力や実力とは違ったところから追い風が来たり、どうにかなったりするというのは理由は特にないと思いますが、さて今回はどうでしょうか。

 今回、やはり鍵は公明党が握っているように見えます。結果論ですが、安倍政権がウザいけど付き合わざるを得ないと思っている公明党の慎重さ、聡明さが、結局は自民党の致命的な失敗に陥るのを回避させ、最後の最後で転覆しないで沈み切らずに切り返しを効かせるというヨットのアンカーみたいな役割を果たしているとも言えます。そこへ、民進党に見切りをつけた一部の連合や、前野誠司さん一派が合流して大翼賛体制的な大連立でも組めるようになれば、真の意味で安倍晋三さん(62)は歴史に名前を残す偉大な宰相になってしまうのかもしれません。それが、たとえ安倍さんの能力や実力によるものではなく、幸運に過ぎなかったとしても、それによって助かるのが日本人であれば良いわけなのですが、さてどうなるでしょうか。

著者プロフィール

やまもといちろうのジャーナル放談

ブロガー/個人投資家

やまもといちろう

慶應義塾大学卒業。会社経営の傍ら、作家、ブロガーとしても活躍。著書に『ネット右翼の矛盾 憂国が招く「亡国」』(宝島社新書)など多数

公式サイト/やまもといちろうBLOG(ブログ)

やまもと氏がホストを務めるオンラインサロン/デイリーニュースオンライン presents 世の中のミカタ総研

「「米朝」戦争と「奇襲解散」選挙にまつわるエトセトラ|やまもといちろうコラム」のページです。デイリーニュースオンラインは、選挙やまもといちろう北朝鮮アメリカ連載などの最新ニュースを毎日配信しています。
ページの先頭へ戻る