「小林製薬」問題にみるネット広告の在り方が根幹から問われる話|やまもといちろうコラム
山本一郎(やまもといちろう)です。先日、ネットニュースでは健康食品系の広告で定番だった小林製薬が、BuzzFeedにやり口を批判されるという事件がありました。
「がん」検索者につきまとうネット広告に批判 健康食品を「あきらめないあなたに」
「その表現、法的にOK?」 健康食品のネット広告、大手企業が一部事業を大幅縮小
ややこしいのは、ネット広告表示の仕組み上、特定のサイトに罹れている記事に連関して広告を出すのがある意味で当たり前になっていることです。
Buzzfeedが指摘した小林製薬の手法は、例えばがん治療に関する記事に広告が貼れる場合、そこに薬効を明記しないで「あきらめられない人に」とあたかも末期がんで標準治療が無効となった患者やその家族の方向けと思える文言で、あからさまに効果の無さげな健康食品を販売しようとするところです。まさに溺れる者は藁をも掴む苦しい立場にいる人たちを狙い撃ちにするかのようなやり方にも見えますから、当然批判されるべきところです。しかしながら、ネット広告ではそういう「広告欄が置かれている良質な記事に自社の広告を置きたい」という需要が一番強いのです。
太り過ぎで悩む人がダイエット関連や健康関連に興味をもって記事を読むのは当たり前のことです。そこへ、広告枠がありダイエット商品や健康食品の広告が貼られていたら踏まれる確率が上がるのは当然です。しかしながら、本来はその記事と貼られている広告とはリンクしておらず、あたかも記事と広告がしているかのような効果を実際に与えるので問題だ、と言われるわけです。小林製薬が本当にステマ紛いを狙って広告を打ったというような事案というよりは、ネットメディアに古くからある手法が実はマズいという話になってきた、という文脈なのではないかと思います。
■ネット広告の立ち位置
また、そのような問題が横行していることと同様に、根深い問題はそういう広告で販売されている商品が果たして効果があるのか誰も確認できないというところにあります。
つまりは、実質的なステルスマーケティングのような状態で記事広告を踏ませているのと大差ないのですが、そもそもウェブサービスとはそういうものであって、アフィリエイト記事はたいていそういう広告が踏まれやすいように仕向ける記事を書くのがノウハウとされてきました。小林製薬もそれ以外のターゲティング広告もまさかそれがアウトになるとは思わなかった、といったところでしょうか。
ならば堂々と記事広告を掲載すればいいじゃないか、あるいはブランディング広告を作れば必要な人に届くはずだと思うわけですけれども、実際にはそうは簡単にはなりません。それは、このような広告に依存する商品は健康食品の中でも効果が乏しいとみられるレベルのものが多いことが理由になります。
先日も水素水絡みで最大手の日本トリムが他の商品と効能や仕組みが混同され怒りのプレスリリースを出していましたが、日本トリムの水素水でさえ実際に医学的根拠があるのかと言われると非常に根拠があいまいな科学論文ひとつに依存していて、見ているこちらが大丈夫なのか不安に思うような内容です。
日本トリム「水素水に対する中傷」で株サイトに抗議 - Y!ニュース
また、痛い関節痛に効くとして市販されているグルコサミンやコンドロイチンなどの健康食品は、調査の結果まったくといっていいほど治療効果がないことが明らかになっています。膝の痛みは関節の軟骨の劣化や、周辺の筋肉の衰えが理由で痛みを発することが知られていますが、その物質を口から食べて痛いひざなどの間関節に効くなどということは当然あり得ないわけです。本当にそのような仕組みで患部の痛みに効くのであれば、薄毛で悩む男性は髪の毛を食べれば生えてくるのかという話になるわけです。
膝の痛みにサプリメントは効果なし!?グルコサミン、コンドロイチンの効果について解説
■消費者庁のメス
さらには、疑似科学の決定版とも言える食べて肌が綺麗になるというコラーゲンも、効果がないことがすでに判明しています。当然のことながら、コラーゲンを食べたら分解されてただのアミノ酸になるわけで、コラーゲンを一生懸命食べて肌をきれいにしたいという願いは分かりますが最終的にはただただ太るだけです。
健康食品の有効性については、かねてから問題は指摘されてきましたが、それでも健康に留意したいという気持ちがある種のプラセボ効果を生んで気休めぐらいの実感は得られるのかもしれません。ただ、医療情報に関しては別です。具体的に人の生き死にがかかるような状況でうっかり「これを飲めばがんに効く」と思わせてしまうような広告の貼り方に問題があるのはいうまでもありません。
そしてついに、健康食品の誇大広告に対して消費者庁がメスを入れる日が来ました。
本当に消費者庁による措置が出るかどうかが分かるのは先のことですが、行政文書で具体的にこのような表現でも優良誤認を導くような広告は免責されないことがはっきりしたのは画期的です。ぜひ物事がよりよく動くように進めていっていただきたいと願うばかりです。
もちろん、ネット界隈に長く暮らしている私の頭をよぎった文言はただひとつ。
「いままで、なんだったのか?」
著者プロフィール
ブロガー/個人投資家
やまもといちろう
慶應義塾大学卒業。会社経営の傍ら、作家、ブロガーとしても活躍。著書に『ネット右翼の矛盾 憂国が招く「亡国」』(宝島社新書)など多数
公式サイト/やまもといちろうBLOG(ブログ)
やまもと氏がホストを務めるオンラインサロン/デイリーニュースオンライン presents 世の中のミカタ総研