清宮が「世界」で通用しなかった理由
錚々たる次世代スターを擁して、てっぺんを目指した“若侍”軍団。そこで待っていた厳しい現実を、“あの人”が斬る!
■野球W杯で世界一を目指した若き日本代表
「世界一を目指す」と意気込み、決戦の地・カナダに乗り込んだ、U-18野球W杯日本代表。スーパーラウンドには進んだものの、カナダと韓国に敗れ、決勝戦にコマを進めることさえできなかった。かろうじて3位決定戦でカナダに雪辱を果たし、意地は見せたが、「世界」の壁の高さを見せつけられる結果となった。「なんだかんだ言って、世界大会で結果を残すのは容易ではありません。世界一は、そんなに甘いものではないということです」(野球評論家の里崎智也氏)
日本代表が越えることができなかった「世界の壁」とは、いったい何か――。『週刊大衆』でコラム連載中の野球評論家・伊勢孝夫氏に、その核心を訊いてみたところ、開口一番、こんな答えが返ってきた。「日本の高校野球のレベルよりも、アメリカ、カナダ、韓国のほうが高かった。象徴的なのは投球。どの国もツーシームが花盛りで、速い変化球が主流になっている。それを打ったり投げたりできんなら、勝てんわ」
確かに、スーパーラウンドの日本戦で先発したカナダのエイブラハムは2メートルの長身からツーシームを投げ下ろして来たし、韓国のキムも、鋭く曲がるエグいシュートを連発。日本の打者たちは、それに対応できず、アウトの山を築いた。その結果、“今年は打のチーム”と呼ばれながら、3位という現実になったわけだ。
■清原和博や松井秀喜と比較される清宮
不振を極めた打線でも、深刻だったのが主砲・清宮幸太郎(早稲田実業)。9試合に出場して32打数7安打、打率は.219と低迷。本塁打2本で自身の高校生本塁打記録を111本にまで伸ばすも、ゲーム全体をみれば、チャンスでの凡退が目立った。「2発は立派やけど、あの打ち方だと低めの変化球は打てんやろうな。膝より下に投げられると、きつい」(伊勢氏=以下同)
低めの速い変化球を打つためには、前脚の膝を柔らかく使わなければならないのだが、清宮の場合は、脚が突っ立ってしまっているのだという。「清原和博や松井秀喜とよく比較されるけど、全然、ものが違う。彼らのほうが、器がはるかに大きい。プロ入りが取り沙汰されてるが、プロじゃアベレージを残さないと。ホームランのイメージが強いけど、それは捨てないといけない。30本打っても、2割そこそこじゃダメ。ましてや清宮は一塁手だから、いくらでも代わりの外国人がいる。プロに入るなら、セントラルよ。速い変化球投げるのなんて、菅野くらいしかおらんからな(笑)」
次に、清宮以上に絶不調だったのが、夏の甲子園で6本塁打を放ち、大フィーバーを巻き起こした広陵の中村奨成。8試合に出場しながら32打数2安打、打率.080と散々。大会中に正捕手の座から外れ、DHに「降格」。スタメン落ちの屈辱も経験した。3位決定戦の対カナダ戦でセンター前に強い当たりを放ち、盗塁も決めて、ようやくトンネルから抜け出したが、時すでに遅し。伊勢氏は、大会での中村の打撃を評して、「甲子園のときと全然違う。あのときは、神がついてたんちゃう。開きが早すぎる。腰にタメがないから、ボールを捕まえられない」と手厳しい。
捕手としても、微妙な評価だという。「肩は強いんやろう。二塁までの送球スピード1.85秒は、古田(敦也)クラスや。でも、これは練習時だし、盗塁阻止は投手との共同作業。数字だけでは、なんとも言えんな」
■プロ野球ドラフト会議で上位指名に食い込んでくる逸材も
注目の2大打者が苦心惨憺する中、中村がてこずった木製バットへの対応も問題なく、大会を通じて本来の力を発揮していたのが、安田尚憲(履正社)。本塁打こそなかったものの、9試合で34打数11安打5打点を挙げ、アベレージは.324。出塁率.452は十分、主軸の役割を果たしたと言える。「安田は清宮や中村に比べて、速い変化球に一番対応できていた。引っ張ったり、逆に打ったり、広角に打ち分けられていたな。長打は打てないが、3番タイプになれる可能性がある」
同じく、清宮や中村より目立ったのは、投手登録でありながら今大会は外野手、DHとして出場し、27打数9安打、打率.333を残した櫻井周斗(日大三)。そして、2人の2年生選手、小園海斗(報徳学園)と藤原恭大(大阪桐蔭)である。小園は37打数14安打、打率.378は、今大会の日本人選手でトップの成績だ。藤原も、36打数12安打の.333と好調だった。「膝を柔らかく使って、低めの変化球に対応していたわ。来年のドラフトでは、上位指名の候補に食い込んでくるやろうな」
一方、今年のU-18日本代表で「例年よりも弱い」と言われていた投手陣だが、蓋を開けてみると、意外と頑張りが目立った。特筆すべきは、田浦文丸(秀岳館)。米国、キューバ、オランダ、オーストラリア戦で火消し役として活躍し、日本代表の中で唯一、ベストナインに選ばれた。とはいえ、伊勢氏の採点は全体的に厳しい。「目立った投手がいなかったな。きめ細やかにきっちりと放れる、コントロールのいい投手がいなかった。強いて言えば最終戦で投げた三浦銀二(福岡大大濠)かな。スタミナがどうかやけど、面白いと思うよ。でも、この子も進学か……。大学にいたら潰されるよ。勉強せんで金も稼げるから、将来プロに行きたいなら、早く入ったほうがいいと思うな」
投打の両面で見せつけられた、世界の壁。日本野球が世界と戦っていくためには、何が必要なのだろうか。「今の147~8キロ以上の速い球に対応するには、バッターはスイングを速くするのが第一。低めの速い変化球は、追い込まれるまで捨てる。とはいえ、並行して打てるように練習をする必要もある」
続いて、投手の場合は、「日本人ならではのコントロールのよさを守りつつ、速い変化球を覚えるべき。ストレートが143~4キロなら、ツーシームも140キロそこそこないとダメ。日本のピッチャーは、あまりに“きれいなストレート”すぎる。それじゃ打たれるし、そのうえ、ツーシームが130ナンボじゃ、世界で通用せんわ」
■日本は韓国にもう勝てない!?
こうした“ツーシーム時代”への対応を、すでに海外のライバルたちは終えているという。「アメリカはもちろん、韓国もとっくに、そうやって若い選手を育てている。今、日本のプロチーム対韓国のプロチームなら、まだ日本が勝つやろうけど、オールジャパンとオールコリアだと、もう勝てない。10回やったら負け越すと思うわ。日本でも、新しい時代の野球をリトルリーグ、シニア、高校、大学、社会人と教えていかないといけない。昔の指導法のままだと、いけない。ツーシームやカットなどの早い変化球、この球をどう打てるようにするか、これがワシの死ぬまでの課題や」
このままでは、世界との差は開くばかり。伊勢氏の提言のように、“新時代”に対応する指導法の確立が急がれる。