森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 公務員定年延長から見えるもの
9月1日の日本経済新聞が報じたところによると、政府が現在60歳の公務員の定年を、'19年度から段階的に65歳へと延長する検討に入ったという。年金の支給開始の年齢が順次引き上げられ、2025年度からは65歳に支給開始になるために、所得の“空白期間”をなくそうというのが、その目的だ。
これは一見すると、何の問題もない施策のようにも見えるが、とてつもない官民格差を生む制度改正だ。
現在、政府は年金の支給開始年齢繰り延べに合わせて、65歳までの継続雇用を確保する政策を打ち出している。具体的には、企業に対して、定年延長のほか、勤務延長、再雇用の導入を求めているのだ。定年延長の場合は、基本的に従前の給与が保証されるが、勤務延長や再雇用の場合は、年収が激減する。
私は今年60歳を迎えたため、同級生が次々に定年を迎えたのだが、定年延長というケースは少なく、ほとんどが勤務延長・再雇用だ。
実際、厚生労働省の「平成26年就労条件総合調査」によると、65歳以上の定年を定めている企業は、わずか全体の15.5%しか存在しない。非常に恵まれた企業だけが、65歳定年制を導入しているのだ。今回の公務員65歳定年制は、その恵まれた企業に国家公務員の処遇を合わせるということなのだ。
実は政府内では、年金支給開始年齢をさらに70歳へと繰り延べようとする動きが進んでいる。少子高齢化に伴って、日本の年金制度は給付カットか支給開始年齢の繰り延べしか破たんを防ぐ手立てがないのだが、なぜ政府内で繰り延べが検討されているのかといえば、公務員が痛まないからだ。
もし年金支給年齢を70歳にしたら、公務員の定年を70歳まで延ばす。そうすれば、公務員の老後は、一生安泰だ。一方の民間は、ごく一部のゆとりのある企業を除いて、60歳から70歳までの10年間、公務員の半分以下の年収で苦しむことになるのだ。
実は、民間の一番よいところに公務員の処遇を合わせるというのは、給与そのものでも行われていた。国家公務員法では、公務員の給与は民間準拠で決めることになっているのだが、実際に行われているのは、事業所規模50人以上の正社員だけを対象に調査を行い、そこに公務員の給与を合わせている。
事業所というのは、営業所とか支店ということだから、そこで50人以上の従業員がいるのは、ほぼ大企業と言える。そして、そこで働く派遣労働者やパートタイマーについては調査せず、正社員の給与だけを調べるのだ。その結果、いまの公務員は、民間をはるかに上回る年収を得るようになっている。
政府が、例えば、派遣労働の適用業務についてどんどん広げてきたのも、どんなに派遣労働者が増えても、自分たちの処遇に一切影響しない仕組みを整えているからだ。
これは、非常に危険な兆候だと私は思う。かつて共産主義国家が没落していったのは、“公務員天国”を作ってしまったからだ。公務員だけが甘い汁を吸う社会を創ったら、民間はやる気を失ってしまう。
いまからでも遅くない。公務員の処遇は、賃金から定年制まで国民の平均に合わせるべきなのだ。