ウルトラマンが悪役に?中国政府が偽特撮ヒーロー映画を支援するワケ

デイリーニュースオンライン

中国政府が支援する偽ウルトラマン映画とは (C)孫向文/大洋図書
中国政府が支援する偽ウルトラマン映画とは (C)孫向文/大洋図書

 こんにちは、中国人漫画家の孫向文です。

 2017年7月10日、「藍弧動画」という中国の製作会社が特撮ヒーロー「ウルトラマン」の3D映画の製作を発表しました。しかし、この映画はウルトラマンの版権元である日本の円谷プロダクションの許諾を一切受けていないもので、当然、円谷プロ側からは抗議が行われたにもかかわらず、映画は中国国内で上映されました。

■中共政府が支援した偽ウルトラマン映画

 今回の偽ウルトラマン映画は、中国の国慶節(建国記念日)である10月1日を記念して作成されたもので、藍弧動画は制作費として中共政府から2億元(約34億円)程度の資金提供を受けました。

 映画発表前の17年3月、僕は日本弁護士学会が主催する著作権会議に観覧者として参加したのですが、その時、円谷プロの代表者が登壇して中国との著作権をめぐる問題について語っていました。

 代表者の話によると、日中国交が正常化して数年が経った1980年代、中国国内では日本から輸入した映画やアニメが大ブームとなりました。そのあおりを受け、当時の代表者はウルトマンシリーズの上映権を売り込むためにCCTV(中国中央テレビ)の上海支局に赴いたそうですが、その際、CCTVの担当者はウルトラマンという放映コンテンツに興味を示し、高圧的な態度で接触してきたそうです。その時のやりとりを会話形式で記すと、

代表者「では、一話あたりいくらぐらい請求可能ですか?」
CCTV「あん? あんたたちは、一話あたりにいくら払えるんですか?」
代表者「え!? ちょっと待ってください、著作権料はコンテンツを売り込んだ側が請求するのが普通ですが……」
CCTV「そんなことはありえない、我々(偉い中国の国営テレビ)が放送してあげるから広告費を徴収するのは当たり前だ。あんたたち、これからウルトラマンのグッズを中国市場で売りたいんだろう?だから国営テレビの力で宣伝してやるから、宣伝費をくれ」

と、世界の常識と反する「ジャイアニズム」とでもいうべき強引な理論を展開した中国のテレビ局に対し、代表者は開いた口が塞がらなかったそうです。

 その後、円谷プロ側が妥協する形でCCTVがウルトラマンシリーズの放送権を購入して中国国内で放送したところ、大ヒットし一気に国民的番組となりました。それに応じて大量のウルトラマングッズが国内で発売開始したのですが、案の定違法コピー品が大量に流通し、その結果、正規のライセンス品の大半が中国市場から姿を消しました。円谷プロをはじめとする日本側の関係者は莫大な損害を被ったのです。

 2017年に制作された偽ウルトラマンの映画のタイトルは「鋼鉄飛龍之再見奥特曼(ドラゴンフォース〜さようならウルトラマン)」というもので、物語はウルトラマンの故郷である日本が核攻撃により大爆発し、ウルトラマンの一族が中国に移住するというもの。

 移住した中国の地は社会主義の平和な国家で、迷惑行為にもかかわらず、ウルトラマン一族は中国の中年女性たちとともに広場で大音量の音楽にのって踊り、一人っ子政策の影響により苦労して二人目の子供を作るウルトラマン夫妻や、中国の国策「晩婚晩育」(晩婚と高齢出産)に適応するウルトラマンカップルなど、中国の世相を反映した内容になっています。

 実はこの作品のウルトラマンは、日本に核攻撃を行った悪の組織と密接に関係しており、中国を支配しようと企む悪役です。映画のクライマックス、悪のウルトラマンは中国製のロボット部隊に倒されるのですが、これは日本が秘密裏に核兵器を保有しているという中国の陰謀論を意味したもので、ロボット部隊は中国こそが世界の平和を守る正義の国家という意味です。

 つまり、「中国共産党政府が統治している国が幸せ」という、建国記念日をテーマにした物語なのです。ちなみに映画内のウルトラマンのデザインは、藍弧動画側は「細マッチョにリファインした」とアピールしていますが、実際は顎が突き出た醜悪なもので、ロボット部隊のデザインは日米が共同制作したアニメ「トランスフォーマー」の露骨な模倣です。

 大半の中国国民は自国の体制が良いものではないと思っています。そこで中共政府は人気キャラを利用してプロパガンダ映画を制作し、自国民を洗脳して意識を変えようとしているのです。偽ウルトラマン映画に対しては、
「子供の頃に観たウルトラマンのイメージが崩れた。ショックだ!」
「日本側の著作権許諾を取ってないみたい。中国の恥です」
「無許諾でキャラクターを改造するなんて、恥ずかしい行為だ」
「ダサい!特に社会主義礼賛の部分がキモい!」
「日本の円谷プロが訴え続けても、ガン無視して上映するなんて!さすが破廉恥な国だ!」
「哲学のようなセリフが多く使われていますが、どれも子供だましにすぎません」
「著作権侵害を愛国の名義で取り消さない」

 と、当然のように批判が殺到しました。

 しかし、その一方、
「我が国に、ようやくクオリティーの高い3D映画が誕生した。売国奴は必ず祖国を無闇に批判する」
「日本側の著作権所有者がキレた。ハハハ!嬉しい!祖国が強いぜ!」
などと、歪んだナショナリズムに基づいた賞賛の声も寄せられました。

 2009年、中国の企業で働いていた僕が仕事の都合ではじめて日本に出張した時、当時12歳だった甥に「僕もウルトラマンの故郷(日本)に行きたい!おじさん、今度日本を案内してよ!」とせがまれました。

 このようにウルトラマンは中国で根強い人気を誇るキャラです。日本が生んだ偉大な正義のヒーローに対し、中共政府はプロパガンダのために著作権を侵害しイメージを踏みにじりましたが、皮肉にもその行為により中共政府の卑劣さ、日本とどのような関係を持つべきかを、多くの中国国民が理解したと思います。

著者プロフィール

漫画家

孫向文

中華人民共和国浙江省杭州出身、漢族の33歳。20代半ばで中国の漫画賞を受賞し、プロ漫画家に。その傍ら、独学で日本語を学び、日本の某漫画誌の新人賞も受賞する。新刊書籍『中国が絶対に日本に勝てない理由』(扶桑社)が発売中。

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