【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第1話 (2/5ページ)
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江戸時代
著/十返舎一九,絵/歌麿「青楼絵抄年中行事〔下之巻〕仲の町 年礼之図」
先頭は年頃十四、五の可憐な振袖新造、中央は綺羅で飾った花魁、はぐれまいとちょこまか必死な幼い禿(かむろ)たち、一番後ろが大年増の番頭新造。色っぽい緋縮緬(ひぢりめん)の蹴出しの上にまとうのは、この日のためにあつらえた全員揃いの初衣装の小袖である。
引手茶屋には、若那屋が引けば玉屋、玉屋が引けば山しろ屋という具合に色とりどりの一行が次々に花のれんを分けて押しかけ、茶屋の旦那は忙しさと小袖の鮮やかさに目を回した。
挨拶回りが終われば禿たちはようやく解放され、羽子板にかるたにと好き好きに遊ぶ。そこへかならずその男は現れた。
男は毎年決まって正月二日に、門松かざりの大門を潜ってこの吉原遊廓にやって来る。
「凧やア、凧」かならず凧だらけの渋紙籠を天秤棒に担いで来た。
はなやかな雰囲気の男で、大通りの仲之町に人がわんさと溢れていても自然と目が行く。丁目の表通りで遊びに興じていた子どもたちも、男の声が聞こえると羽子板やサイコロを放り出して木戸門を飛び出し、仲之町をスタスタ歩く男を追いかけた。
だから、あの男の歩く後にはいつも花が咲く。