NHK大河ドラマも最終回! 西郷どんに学ぶ「食の秘密」
現代人を魅了し続けるあの傑物には、知られざる秘密があった!? NHK大河ドラマ『西郷どん』も、いよいよ最終回を残すのみ(16日放送予定)となったが、ここではドラマでは描かれなかった“維新の英雄”西郷隆盛の「食」の秘密に迫ってみよう。
■鰻は必須アミノ酸のビタミンB群が豊富
鹿児島の郷土料理の中には絶倫になる素材や調理法がわんさか。たとえば、日本人の誰もが精力源と信じて疑わない鰻には、必須アミノ酸のビタミンB群が豊富に含まれている。
実は、養殖鰻の生産量は全国の4割を占める鹿児島県が断トツの1位。もちろん、幕末の頃は天然モノだ。「西郷の生家のすぐ近くを流れる甲突川では昭和に入っても、鰻の稚魚が泳いでいました」(東京・鹿児島県人会関係者)
『西郷どん』でも西郷が手づかみで鰻を捕らえ、その場で焼いて食べるシーンが登場していた。「西郷は江戸で初めて蒲焼を食べ、その旨さに驚いたようです。その後、鹿児島に戻った西郷が桜島へ出かける途中、鰻屋を見つけ、連れていた愛犬にも鰻を食べさせたという話は有名です。西郷は、それだけ鰻が好きだったんです」(前同)
とはいえ、鰻は全国共通のパワーフード。鹿児島独自の食はないかと思い、まず見つかったのが茶節という料理だ。
「お椀にカツオ節と味噌、それに、お好みでネギ、ショウガ、卵などを入れて混ぜ合わせ、あとは熱いお茶ないしはお湯を注ぐだけ。ショウガは体を温め、血流を良くし、ビンビンにする効果もあるといわれています」と語るのは、B級グルメライターの田沢竜次氏だ。ショウガ入りの味噌汁は、絶倫食として優れモノ。
「薩摩の郷土料理といえば、『薩摩汁』も栄養が高く、精がつきます。骨つきの鶏のぶつ切りに大根、里芋、ゴボウ、ネギなどを入れた、具だくさんの味噌汁です。里芋はカリウムが豊富。鶏は他の肉に比べ、肥満などを招く脂肪が少ない。おまけに、ゴボウには亜鉛が多く含まれています」(田沢氏)
■薩摩の黒豚は肉が引き締まり、脂肪が少ない
さらに、鹿児島で忘れてならないのが黒豚だ。ビタミンB6やカリウムが豊富なサツマイモで焼酎を作った残りかすを、餌として与えられているのが薩摩の黒豚。一般の豚に比べて肉が引き締まり、脂肪が少ないのが特徴だ。江戸時代まで、建前としては獣肉食の禁忌が守られていた。牛肉を食べることが文明開化の象徴として考えられ、すき焼きが流行したのは、明治時代に入ってからだった。「戦国時代から薩摩では豚肉を“歩く野菜”と呼び、戦場へ生きた豚を、そのまま連れていき食する珍しい肉食集団でした」(前同)
幕末、薩摩の島津斉彬と交遊のあった水戸藩主・徳川斉昭は、この黒豚を「いかにも珍味、滋味あり、コクあり、なによりも精がつく」と絶賛。水戸徳川家出身の最後将軍・徳川慶喜が「豚一様」と呼ばれるほどの黒豚好きだった話は有名だ。禁忌はどこへやら、遠方の水戸の殿様たちが絶賛するくらいだから、西郷が黒豚を食べなかったはずはない。
奄美大島に流された西郷は大久保利通に手紙を送り、「豚みたいになってしまった」とこぼしているが、「奄美では豚を使う料理が多い」(前同)という。黒豚ばかり食べて西郷は丸々と太り、愛加那(2番目の妻)ともフルスロットルだったのか……。『「和の食」全史』や『武将メシ』など、多くの著書がある食文化史研究家の永山久夫氏が言う。「当時の成人男性の身長は150センチほど。西郷さんが約180センチとずば抜けて高かったのは、当時の薩摩藩の食生活と関係があると思います。その理由は、豚料理をよく食べていたからでしょう。薩摩藩には、中国から琉球を経て豚が入って来ていましたからね」
鹿児島の黒豚料理の代表格が、その名もズバリ「トンコツ」。西郷も、このトンコツが大好きだったという。永山氏が、こう続ける。「トンコツは骨ごとグツグツ煮て丸かじりするもの。当然、骨を作るカルシウムを多くとることになります。また、鹿児島は太陽の恵みが大きいですからね。太陽をたくさん浴びると、カルシウム吸収を促すビタミンDが体内で生成されます」
こうして西郷のような大男が、鹿児島で誕生したのかもしれない。鹿児島にはまだまだ絶倫食があるという。「地元でよく獲れるイカやタコ、貝類にはタウリンが多く含まれています。明治になって、政府は欧米人に対抗して日本人の身長を高くしなければならないと考え、肉食を推奨するようになりますが、薩摩藩は、それを先取りしていたわけです」(永山氏)
このほか、薩摩の郷土料理でよく使われる鶏にもアルギニンがたっぷり。血行促進を促す作用もあり、いざというとき、ビンビンにしてくれる効果があるのだ。
■黒酢やカツオも体にいい
「薩摩の郷土料理といえば、黒酢もいいですね。クエン酸が豊富で血流を良くしてくれます。必須アミノ酸が豊富に含まれており、抗酸化成分が多いので老化を防いでもくれます」(前同)
鹿児島産の黒酢は、江戸時代後期、1800年頃から作られていた。「天保4年、当時、莫大な借金を抱えていた薩摩藩の家老・調所広郷が財政改革を行った際、黒酢は“商品作物”として藩の財政を救ったともいわれています」(歴史研究家)
さらに、鹿児島ではカツオがよく獲れる。和食にとって欠かせないカツオ節の生産量は、鹿児島が全国1位なのだ。「カツオにはトリプトファンという必須アミノ酸が豊富に含まれています。このトリプトファンは別名“幸せホルモン”とも言われ、気分を安定させるセロトニンという脳内物質を増やしてくれます」(永山氏)
しかし、食べ過ぎはよくない。実は西郷どんも、その晩年には、現代人と同じ悩みがあったようだ。「糖尿病ですよ。幕末、駆けずり回っていた時代は消費エネルギーが多く、問題はありませんでした。ところが明治維新後、官僚になってからの西郷さんは優に100キロオーバーの体重になっていたはずです。西郷さんの肥満を心配した明治天皇は、お雇い外国人医師・ホフマン博士に診療させています。西郷さんが友人に送った手紙によれば、今で言う糖質ダイエットをしていたことが分かります」(前同)
上野の銅像が連れている犬は猟犬で、ダイエットのためにウサギ狩りに励んでいたという西郷だが、実は、糖質制限を日本で初めて実践した人だというのだ。維新の英雄も、ついつい食べ過ぎてしまう煩悩の人だったのかもしれない。
鈴木亮平が演じる『西郷どん』は最終回に城山で自害するはずだが、その一方、政府軍の包囲網を破って脱出し、シベリアに潜伏していたという噂が死後も流れ続けたという。不死伝説さえ残した西郷どんの愛した鹿児島の絶倫食、ぜひ一度お試しあれ。