肩書よりも「あなた」が大切―京都五山の第四位・東福寺にて、和尚と府知事の友情エピソード (3/3ページ)
すまんが敬冲和尚に『晋太郎が来た』とお伝え下され」
「わかりました」
すると今度は敬冲和尚、「待ってました」とばかりの大喜びで、飛び出さんばかりのお出迎え。
喜び出迎える敬冲和尚(イメージ)。
「おぉ北垣殿、お待ちしておりましたぞ。聞けば先刻、宮内『大書記官』をご兼任とのこと、誠におめでとうございます。さぁさぁ奥へどうぞ。心ばかりの茶なども進ぜましょうから、積もる話など、たんとお聞かせ下され……」
これを聞いた北垣は内心「(わしが大書記官であると百も承知で)まったく……人を喰った坊主だ」と苦笑しながら、それでも掛け値なしの真心に痛み入り、そのもてなしを心ゆくまで味わったそうです。
めでたし、めでたし。
まとめこのエピソードは、敬冲が北垣(及びその従者)の「肩書ありき」な交際を暗に否定し、あくまでも互いの「本質」と向き合いたい意思を伝えるものです。
私は、あなたが「京都府知事」だとか「大書記官」だから親しくしているのではなく、あなたが昔から変わらない「晋太郎」さんであることこそ、何より大切に思っている。
いかなる地位や肩書も、そんなものはあくまで天下公益に供すべき「道具」「手段」に過ぎず、いつか立ち去る仮住まいも同じ。
現役時代は出世して、地位や肩書を並べて大威張りだったのに、定年退職した途端、途方に暮れてしまう方をよく見かけますが、いつまでも変わらぬ人間の「本質」を、改めて見据えて頂くきっかけとなりましたら幸いです。
※参考文献:
蔡志忠『マンガ 禅の思想』講談社+α文庫、1999年4月14日 第2刷
日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan