「自衛隊基地がある」生存できる街、「人殺しダム・堤防」がある街

日刊大衆

写真はイメージです
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 いつ何時襲われるか分からない天災。命に関わる“大規模災害”が頻発しているが、居住地域に“安全格差”が!?

 被害は、想像以上に甚大だった――。10月6日にマリアナ諸島東海上で発生した台風19号は、列島に向かって猛進。12日の午後7時頃、伊豆半島に上陸した。そのまま、関東地方、福島県を通過し、三陸沖に抜け去った。死者90人、行方不明者5人(11月3日現在)。71の河川が決壊し、被害にあった住宅だけでも8万棟を超えた。防災・危機管理ジャーナリストの渡辺実氏が言う。「米国では、この規模のハリケーンはたびたびありますが、日本のような温暖な気候のところで、19号のような巨大な台風は考えられなかった。これは、我が国では“100年に1度”の確率で想定していた最悪の台風が、連続して襲来する時代になったということです」

 激甚災害が頻発する理由は、地球温暖化や偏西風、海流の変化、地磁気の異常などが考えられるという。「いずれにせよ、日本は“激甚災害多発時代”に突入したということです。行政側も想定外の風雨が襲ってくるため、これまでの備えでは対処できません。また、防災対策は“平等”でなく地域格差があることも、露呈したと言えますね」(国土交通省担当記者)

 防災が平等ではないとは、どういうことか?「防災対策はやはり、人口が多い地域や政経中枢が重視されます。逆に言うと、過疎地や遠隔地は費用対効果の面から、防災対策が後回しにされることも少なくありません」(前同)

 防災が平等ではないことを裏づける興味深い話がある。都内を流れる荒川の堤防をめぐる疑惑だ。「江戸川区側(東側)の堤防が、意図的に低くなっていることが分かっています。これは、明治時代に設計された際、荒川が氾濫した際に首都中枢を洪水被害から守るためだったとされています」(同)

 他にも、台風19号や昨年の西日本豪雨などで、ダムの緊急放流をめぐり、事故が発生している。「バックウォーター(逆流)現象も、注目されました。豪雨で河川の本流の水位が上昇し、支流の水が本流へと流れ込めずに、逆流、氾濫する現象です。台風19号で多摩川が氾濫した際、神奈川県のマンション1階の男性1人が死亡したのも、このためです。各地で同現象により、堤防が決壊しなくても多くの支流河川が氾濫被害を受けました」(前出の渡辺氏)

 バックウォーター現象が起きる2級以下の河川の管理は、各自治体が担っているが、資金面の問題から、十分な対策が取られていないことが多いという。災害対策も金次第。その意味では、資金面に余裕のある自治体のほうが安全だと言えるだろう。「札幌、東京、名古屋、大阪、福岡の5大都市を比較してみると、資金力のある東京はトップレベルで防災対策が施されています。ただ、いかんせん、人口が多過ぎますし、巨大な地下空間や密集する建物の問題もあります。今後、大都市の防災対策は平面ではなく、地下、高層も含めた4次元対策が必須となってくるでしょう」(前同)

■警察や消防には限界がある

「災害が発生した際、自分の住む場所は具体的に、どんなリスクがあるのか。浸水なのか、建物崩壊なのか、火災なのかなど、具体的に把握しておくことが必須です。各自治体が提供するハザードマップなどで、情報収集が可能です。また、自分の避難場所がどこになるのかも、知っておくべきですね」(同)

 いつ何時、襲ってくるか分からない大災害。最低限の備えが必須の時代になったと言えるが、それでも被災してしまうのは仕方がない。自分が被災者となったときに、最も頼りになるのが自衛隊だろう。防衛省関係者が言う。

「警察や消防も災害対応に当たりますが、やはり限界がある。自衛隊が出動するのは、各自治体のトップから災害派遣要請を受けてからになりますが、我々は要請を受ける前から偵察機を飛ばすなどして、被害状況を掌握し、備えています。近年は自治体側が迅速に災害派遣要請してくれるので、初動対処がスムーズになりました」

 自衛隊の災害派遣活動をまとめた著書『自衛隊さんありがとう』(双葉社)がある、ジャーナリストの井上和彦氏が言う。

「自衛隊は災害派遣命令が下ると、東日本大震災のように、ガレキの山となってしまった被災地にやって来て、あっと言う間に拠点(テント、炊事場)を作り、道がないところには道を作ってしまいます。つまり、自立的な救援活動が可能なんです。これは警察、消防では不可能です。警察や消防の場合は、“食事は? 宿泊先は?”となりますからね」

 一朝事あらば、陸自隊員が真っ先に駆けつけ、海空自衛隊は、輸送や航空機による人命救助、海上からの物資輸送を行う。「世間の方は、災害派遣は陸自(陸上自衛隊)が中心と思われがちだが、実際は陸海空の別はありません。陸海空自衛隊が連携しながら、常に“オール自衛隊”で事に当たっています」(前出の防衛省関係者)

■被災者救助は戦争技術の応用

 自衛隊が災害派遣において驚くべき能力を発揮できるのも、理由がある。

「ヘリでホバリングして被災者を救助する技術などはすべて、“戦技”の応用なんです。洋上でも雪山でも救助が可能なのは、あらゆる場所での戦闘を想定して訓練しているからです」(専門誌記者)

 となると、気になるのが自分の住む地域に駆けつけてくれる自衛隊だろう。

「東日本大震災のような未曽有の災害の際は、全国の部隊から災害派遣に駆けつけますが、基本的には災害派遣を担当するエリアがあり、地域内の部隊が優先的に派遣されます」(前同)

 災害時の“切り札”と言える自衛隊が手薄な地域も存在する。単純には言えないだろうが、やはり、近くに自衛隊が所在しているエリアは防災時に安心感が強いようだ。

「陸自の駐屯地でいえば、四国、中国、奈良、北陸などは数が少ないですね。逆に北海道と九州、意外や東京も駐屯地が多いです。昨今、被災が相次いでいる九州では、自衛隊が大活躍しています。その際、九州の駐屯地の自衛官が地元で救援すれば、当然“地の利”はあります。もちろん、自衛官は分け隔てなく、全国どこへ行っても同じように誠心誠意、救援してくれますが、地の利がある場所のほうが救援しやすいのも事実のようです」(前出の井上氏)

■北朝鮮などのミサイルに対する備えも

 災害のみならず、北朝鮮などが発射する弾道ミサイルに対する備えも、地域ごとに濃淡があるという。「弾道ミサイル防衛は、敵ミサイルをミサイルで撃ち落とすということ。日本海に展開するイージス艦がまず、その先兵となります。万が一、イージス艦が敵ミサイルを撃ち漏らした場合は、航空自衛隊が運用するPAC3(パックスリー)という車載式の地対空ミサイルで、迎撃を試みます」(防衛省関係者)

 井上氏が言う。「PAC3の有効射程は、半径約50キロ。配備状況から、防衛可能なのは、東京などの政経中枢中心となります。大阪ですら“空白地域”になっているほどですからね。ただ、これは仕方がない話で、全国をくまなく守るためには、予算が圧倒的に足りないんです……」

 PAC3は車両で展開できるが、あらかじめミサイルのターゲット地点を把握して移動することは、事実上難しい。そのため、政府は“陸上のイージス艦”と呼ばれるイージス・アショアの配備を決定している。「イージス・アショアが稼動すれば、現状の約10倍の広範囲を防衛できます。賛否がありますが、“防衛格差”を作らないためにも、必要な装備と言えますね」(前同)

 天災のみならず、人災への備えも怠ってはならないのだ――。

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