除夜の鐘と共に去りぬ 日本の司法をあざ笑うゴーンの逆襲
大晦日に衝撃の“除夜の鐘”が響いた。金融商品取引法違反などで起訴され、保釈中だった日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告(65)が、レバノンに逃亡したことが明らかになったのだ。
司法記者が語る。
「除夜の鐘が鳴る数時間前、仏紙レゼコーがゴーン被告の国外逃亡を報じたのですが、当初、東京地検幹部は『ガセじゃないのか』と余裕の表情でした」
ところが、同日中にゴーン被告がレバノン滞在を認めたうえで、「差別がまん延し、基本的な人権が無視されている不正な日本の司法制度の人質ではなくなります」との声明を出した途端、地検幹部は「安易に保釈を認めた裁判所が甘すぎたんだよ」と逆ギレしたという。
「保釈中だったゴーン被告には、妻との接触や携帯電話やパソコンでの通信の制限などの条件が東京地裁から課されていました。東京地検も、警察の協力を得ながら定期的に行動を監視していたとされますが、まんまとしてやられた格好です。所定の捜査とはいえ、1月2日に、もぬけの殻となったゴーン被告の制限住居にガサをかける検察官の姿は、遺品整理にも似た悲哀に満ちていましたよ」(前出・司法記者)
ゴーン被告逃亡前の東京地検特捜部は有頂天だった。IR・統合型リゾート施設の業者選定に関する汚職事件で、中国企業側から現金300万円の賄賂を受け取ったなどの収賄容疑で、自民党衆院議員の秋元司容疑者(48)を逮捕。2010年1月に石川知裕衆院議員(当時)を政治資金規正法違反で逮捕して以来の“快挙”に沸いていたのだ。
「この10年間はバッジ(議員)を挙げられず、証拠改ざん問題などで権威も失墜。特捜部不要論まで噴出していました。秋元容疑者はどうでもいい小物ですが、これで汚名返上につながると、検察関係者は一様に小躍りし、『まだまだ次があるかもよ』と鼻息も荒かった」(全国紙社会部デスク)
本来は年またぎの取り調べをしたくないので、急を要さない事件は年末には手をつけないものだが、
「1月末で東京地検特捜部の森本宏部長が退任するため、花道に間に合うように無理やり年内の逮捕を強行したのです」(同)
悦に入った仇敵・東京地検特捜部に、強烈なしっぺ返しをお見舞いしたゴーン被告。保釈時も変装していたが、その逃亡方法もスパイ映画なみだった。
「ゴーン被告は、12月29日の昼頃に1人で外出したことが制限住居の防犯カメラで確認されている。ここから関西国際空港に移動し、トルコの民間航空会社からチャーターしたプライベートジェットでトルコに飛び、フランスから2冊発行されているうちの1冊のパスポートを提示して、航空機を乗り継いでレバノンに入国した可能性が高い」(捜査関係者)
ブラジル、レバノン、フランスの3カ国のパスポートを有するゴーン被告は、海外逃亡を防ぐためにすべてのパスポートを弁護団が厳重に管理していたが、日本の司法当局はゴーン被告がフランスのパスポートを2冊所持していることまでは把握していなかったようだ。
海外取材の多い国際ジャーナリストが言う。
「たとえば、われわれがA国に頻繁に出入りしていると、敵対するB国から入国を拒否されるといったリスクが生じます。そのため、フランスは一部のジャーナリストや企業トップなどには2冊のパスポートを発行することがあるそうです」
周到に準備された逃亡劇は、パスポートのからくりだけではなかった。
「出国の際、ゴーン被告は楽器箱のような大型ケースに隠れていたようだ。これには、レバノンなどの外交官が協力していた可能性が高い。外交官であれば、荷物の中に機密書類を入れていることがあるので、入管は中身を調べられない。この特権を使って、ゴーン被告を機内に“持ち込んだ”のではないか」(前出・捜査関係者)
レバノンはゴーン一族の出身国で、ブラジル生まれのゴーン被告も幼少期を同国ですごした。現在も首都・ベイルートに専属コック付きの3階建て邸宅を構え、逃亡後はここに潜伏しているものとみられている。
「日本は国際刑事警察機構(ICPO)を通じてレバノンに送還を求めましたが、同国の法相は早々に拒否する姿勢を示しています」(前出・司法記者)
そもそもレバノンは、これまでにも日本人犯罪者を匿った過去がある。1972年にテルアビブ空港乱射事件で26人を殺害した元日本赤軍の岡本公三容疑者(72)だ。同容疑者はイスラエルで終身刑の判決を受けたが、捕虜交換によって釈放され、レバノンに移住。「アラブの英雄」として、過激派勢力の庇護のもとで生活している。
「今後、レバノンが日本にゴーンを差し出すことは考えられません。今回の逃亡劇自体、レバノン政府とゴーン被告が一体になって実行した疑いが強いからです。当然、総資産2000億円とも言われるゴーン元被告から、レバノン政府に膨大なカネが回っていることも推測されます」(同)
しかも、国際的にはゴーン被告に同情的な意見も多いだけに、逆襲される恐れもあるという。
「逃げられただけならまだしも、ゴーン被告は国際社会に“日本がいかにひどい国か”ということを訴え続けるでしょう。これが政治的にも経済的にも日本にとって大きなマイナスになるのは間違いない」(前出・国際ジャーナリスト)
海の向こうから、ゴーン被告の高笑いが聞こえてきそうだ。