どうしても忘れられない。心の傷を癒してくれたあの人に会いたくて97日間探し続けた犬の物語(アメリカ)
image credit:Seneca Krueger/Facebook
困難を抱える動物たちに、深い愛情で接し、信頼関係を築き上げ、再び人間を信じ、共に暮らしていけるよう尽力している人たちがいる。
アメリカのミネソタ州で、里親ボランティアとして12年にわたり30匹の犬たちの世話をしてきた心理療法士の女性は、去年心に病を抱える1匹の犬の里親となった。
この出会いが犬の心を大きく変えた。ふれあいを続ける中で、犬は閉ざしていた心を開き、深い絆が芽生えた。女性を大好きになったのだ。
元気になった犬は新たな飼い主が見つかり、女性のもとを離れていった。だが、どうしても女性のことが忘れられなかった。犬は、97日間かけて大好きな女性のもとへ戻って来たのだ。『Western Journal』などが伝えている。
・里親ボランティアの女性、心に病を抱えた犬を預かる
ミネソタ州セントポールに住むセネカ・クルーガーさんは、去年8月にメス犬のゼルダを里親として一時的に引き取ることにした。
セネカさんの所にやってくる前にも他の里親ボランティアに預けられていたゼルダは、心の病を抱えており、抗不安薬を処方されていた。
前の里親の所では症状を改善することができないまま、心理療法士のセネカさんのもとへ来たゼルダは、最初の2週間は怯えてばかりだった。1日中ベッドの下に隠れるか、同じ場所を同じスピードで歩き回る行為(ペーシング)を繰り返していたという。
セネカさんは、飼い犬2匹の協力を得ながらゼルダの心をなんとか解きほぐそうと試みた。
リードを着けると、多少落ち着く様子を示したので、最初の2週間はリードをつけたままでリハビリトレーニングを行った。
さらにその2週間後、ゼルダのペーシングの回数が減り、隠れていてもセネカさんの姿を見ると出てくるようになった。セネカさんはこのタイミングで、ゼルダに抗不安薬を与えることを止めた。
・症状が落ち着いたゼルダ、新しい飼い主のもとへ
セネカさんの献身的な愛情は、ゼルダの心にちゃんと届いていたようだ。2か月後には、セネカさんに尻尾を振るようになった。2か月後には吠えて遊ぶようになった。
大きな音や見知らぬ人にはまだ怯えるものの、元気を取り戻したゼルダの様子を見て、症状が改善していると確信したセネカさんは、今年1月に「永遠の家を見つけてあげる時期が来た」と判断した。
飼い主は直ぐに見つかり、ミネソタ州ミネアポリス郊外チャナッセンに住む一家がゼルダの新しい家族になることに。
ゼルダを一家のもとへ送って行く日、セネカさんはまるで我が子を手放すような辛い気持ちになり、胸を引き裂かれそうになった。
こんな気持ちになったのは、12年の里親ボランティア経験で初めてでした。涙が溢れたので、運転していた車を停めなければならなかったほどです。
ゼルダにお別れを言った後も、3日間家で鳴き続けました。(セネカさん)
ところが...セネカさんは、別れから2週間も経たない2月6日に、ゼルダが逃げ出したという知らせを受けることとなる。
・行方不明になってしまったゼルダ
ゼルダが行方不明になったという連絡を受けたセネカさんは、すぐにいなくなった犬を追跡するボランティア団体『START』の協力を得て、ゼルダを探した。
この時期、ミネソタ州は氷点下に達する外気温が続いており、凍える中でゼルダがどこでどうしているのかとセネカさんは毎日心配しながら過ごした。
3月20日、セネカさんはFacebookにこの1件をシェア。
ゼルダが行方不明になってもう1か月以上になります。チャナッセンから消えたゼルダがミネトンカ湖の周辺で目撃されて以来この3週間、新たな目撃情報は出ていません。
この投稿をどうかシェアしてください。正確な目撃情報を寄せてくれた方には謝礼として100ドル(約10800円)を差し上げます。
ゼルダは、行方不明になって2か月後にミネアポリスで目撃されていた。そこは、新しい飼い主の家とセネカさん宅のちょうど中間地点だった。
セネカさんは、「きっとゼルダはここに戻ってこようとしているに違いない」と直感した。ゼルダの飼い主に事情を話し、ゼルダを自分の犬として登録した。
時間の許す限りゼルダの捜索を続けていたある日、セネカさんの自宅から1.6kmほど離れた所に住む1組のカップルが「ゼルダに似た犬に餌をあげている」という情報をくれた。
STARTのスタッフが早速カップル宅に出向き、保護するためのケージを設置。5月15日の早朝、セネカさんは犬がケージに入ったという連絡を受け駆け付けた。そこには、ゼルダとはとても思えない風貌の犬がいた。
・97日間、約64km以上を旅して大好きな人のもとへ戻ったゼルダ
小さく痩せ細り、汚れ切った犬を見たセネカさんは、「これは私の知っているゼルダと違う」と思ったが、マイクロチップスキャンしたところ、まさしくそれは探し続けていたあのゼルダだった。
長旅の疲れで変わり果てたゼルダを思い、再会できた嬉しさでセネカさんはただただ号泣した。
奇跡に直面したら泣くことしかできませんでした。あまりにも私が知っていたゼルダの面影から変わっていたので、パッと見てすぐにわからなかったことをゼルダに謝りました。そして97日ぶりにしっかりとゼルダを抱きしめました。
ゼルダが行方不明になってからずっと探し続けてきたこと、もうどこにも行く必要はないんだということをゼルダに伝えました。
ゼルダを飼い犬として引き取ることを考えてないわけではなかったのですが、きっとゼルダはもうずいぶん前からそう決めていたのでしょう。
このように語るセネカさん。きっとゼルダは、唯一心を許せる人間の傍にずっといたかったのだろう。約64kmの距離を97日間かけて、大好きなセネカさんのところに戻って来たのだ。
5月11日、Facebookでゼルダとのツーショットを動画でシェアしたセネカさんのもとには、多くのユーザーらから喜びと安堵の声が寄せられている。
written by Scarlet / edited by parumo