平安貴族の万能フレーズ!「あはれ」と「をかし」それぞれの特徴と使い方の違い

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平安貴族の万能フレーズ!「あはれ」と「をかし」それぞれの特徴と使い方の違い

古文と言えば、少なからぬ方が授業でもよく見聞きした「あはれ」を連想するのではないでしょうか。

これが実に便利なフレーズで、感動を伴いさえすれば、美しくても悲しくても何でも「あはれ」で通じてしまう優れもの。

「月が綺麗ですね」
⇒「いとあはれ(あなたはもっと綺麗ですね)」

「このたび表彰されまして」
⇒「いとあはれ(すごいですね。おめでとうございます)」

「身内に不幸がありまして」
⇒「いとあはれ(この度は、誠にご愁傷さまでございます)」

「いとあはれなり」その一言に込められた複雑なニュアンス(イメージ)。

……などなど、文脈によって柔軟なニュアンスを含ませられ、とりあえずこう答えておけば

「あなたのお話しに、大変心を動かされております≒ちゃんと聴いております」

という意思表示が可能なのです(濫用注意)。

「ねぇ、ちゃんと話を聞いてるの!?」
⇒「いとあはれ(はいはい、聞いてますよ。一応)」

その一方で、「をかし」というフレーズもよく見聞きします。

清少納言(せい しょうなごん)の随筆『枕草子(まくらのそうし)』で有名なこのフレーズ、趣深いとか味わい深いと言ったニュアンスのほか、現代と同じく「可笑しい」「変、異様」といった意味でも使われているようです。

心が動かされるという点で「あはれ」と共通していますが、両者の大きな違いは何でしょうか。

そこで今回は、平安貴族の万能フレーズ「あはれ」と「をかし」の違いを紹介したいと思います。

ウェットな「あはれ」と、ドライな「をかし」

まず、古語辞典で「あはれ」と「をかし」の特徴を比べてみましょう(※似通ったニュアンスはある程度まとめています)。

【あはれ】
1、しみじみと心動かされる。
2、可愛い、愛しい。
3、かわいそう、気の毒。
4、悲しい、寂しい。
5、情が深く、細やか。
6、尊い、すぐれている(賞賛)……などなど。

【をかし】
1、滑稽、可笑しい。
2、興味深い。
3、趣がある。
4、すぐれている。
5、かわいらしい。
6、変だ、異様だ……などなど。

こうして見ると、「あはれ」は「をかし」に比べてウェットと言いますか、対象に感情移入して、感動の主体になっている印象を受けます。

一方で「をかし」はその言葉が指している対象から一歩引いて、冷静に観察している表現のようです。

叶わぬ恋と知りながら、彼女に一目ぼれしてしまった「あはれ」な貴公子(イメージ)。

今まさに感動しているのが「あはれ」で、感動的であると評価しているのが「をかし」。

そう分かると、『枕草子』の文中に多く出てくる「をかし」は、「あれは趣深い、これは興味深い」と評価しながら、対象に踏み込みすぎない清少納言のサッパリした性格を表しているのだと判ります。

終わりに

【あはれ】
自分が感動の主体となっている。ゆえにウェットなニュアンス多し。

【をかし】
対象から一歩引いて、心動かされる性質を評価している。ゆえにドライなニュアンス多し。

心遣いに感じ入った男が、口にするのは「あはれ」か「をかし」か(イメージ)。

「あはれ」と「をかし」の違いをまとめると、こんな感じでしょうか。どちらも心を動かされる物事に対して使う点は同じですが、対象との距離感に差が出ているようです。

現代でも「もののあはれ」などと言いますが、「をかし」との違いを知って使い分けてみると、より豊かなコミュニケーションが楽しめるかも知れません。

※参考文献:
鈴木一雄ら編『全訳読解古語辞典 第三版』三省堂、2006年11月
岡本梨奈『かなり役立つ!古文単語キャラ図鑑』新星出版社、2018年12月

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