岩本蓮加、筒井あやめ、金川紗耶の個人PVを手がけた作家「吉川エリ」の手法【乃木坂46「個人PVという実験場」第19回4/4

日刊大衆

※乃木坂46筒井あやめ/画像はEXwebの記事(https://exweb.jp/articles/-/73319)より
※乃木坂46筒井あやめ/画像はEXwebの記事(https://exweb.jp/articles/-/73319)より

乃木坂46「個人PVという実験場」

第19回 音楽作品と個人PVとのリンク 4/4

 2017年にリリースされた乃木坂46の17枚目シングル『インフルエンサー』は、同年末にグループ初のレコード大賞を受賞した作品である。このシングルではまた、実に45本の個人PVが制作され、収録コンテンツの面でも充実度の高いプロダクトになっている。

 作品数の増加は、同年から実質的な活動を開始した3期メンバー初の個人PVがこのシングルで制作されたことによるものだ。そして、3期メンバーの音楽系個人PVについてみるとき、この17枚目シングルで鮮烈な印象を残した作家が、中村麗乃の作品を担当した吉川エリだった。

https://www.youtube.com/watch?v=JaAAO1NGyAM
(※中村麗乃個人PV「ちょこれ~の!」予告編)

岩本蓮加の「れんかのおうえんか!」

 本連載2020年9月23日掲載分でもふれたように、吉川はこの「ちょこれ~の!」を皮切りに、コンスタントに個人PV制作に参加するようになり、オリジナルソングを軸とした作品を発表し続けている。吉川特有のゆるやかな雰囲気とポップさは、すでに「ちょこれ~の!」で存分に発揮されているが、つづく岩本蓮加の個人PV「れんかのおうえんか!」以降、手作り感のある美術・小道具をますます効果的に用いて画面を彩りながら、個人PVの中に自身の持ち味を刻みつけていく。

https://www.youtube.com/watch?v=8JWRPQwHO-E
(※岩本蓮加個人PV「れんかのおうえんか!」予告編)

 楽曲の世界観と演者の姿をポップな色付けで際立たせてゆくスタイルは、一貫して吉川が得意とするところだ。たとえば、吉川が監督したコレサワ「Day by Day」MV(2020年)などにも、すぐれてキュートな世界観を作り込んでゆく手際がうかがえる。こうした作品をみるとき、彼女が乃木坂46の映像コンテンツにおいても、さらに広い役割を担っていくことへの期待がかかる。

https://www.youtube.com/watch?v=jZ0UA58NiJU
(※コレサワ「Day by Day」MV)

筒井あやめ「筒井あやめのアイドル開幕宣言」

 乃木坂46のコンテンツに関していえば、吉川は4期メンバーを担当した作品のなかで、さらに手数を増やしながら、個人PV全体の幅を拡大させている。ニシノアサキやウチボリシンペら吉川作品に重要な色を加えていくスタッフとともに、ポップかつ心地よく肩の力の抜けたオリジナルソングと美術・小道具を駆使しながら、そのつど新たな見せ方を提示しているのが、近年の吉川作品である。

 筒井あやめの個人PV「筒井あやめのアイドル開幕宣言」(23枚目シングル『Sing Out!』収録)では、前半で長回しのワンカットならではの空気感をオリジナルソングにマッチさせつつ、後半ではむしろ衣装や設定、小道具などを次々に変えながらカットを割り、同じ楽曲の中に新鮮なメリハリをもたらしている。

https://www.youtube.com/watch?v=ZYM9Gz4I_HE
(※筒井あやめ個人PV「筒井あやめのアイドル開幕宣言」予告編)

金川紗耶「みな天才だカーニバル!」

 さらに今年1月リリースの『僕は僕を好きになる』に収録された金川紗耶の個人PV「みな天才だカーニバル!」では、ポップな小道具使いはもちろんのこと、画面の質感や装飾、シーンの切り替わりにみせる遊び心など、吉川が手がける個人PV史上、最も賑々しく細やかな処理を施している。

https://www.youtube.com/watch?v=CUkbYDWE46k
(※金川紗耶個人PV「みな天才だカーニバル!」予告編)

 また、この作品では金川が演じるいくつものキャラクターや映像の進行に呼応するように、複数の楽曲が制作され各シーンに配置されている。

 6月17日更新分でみた月田茂らによる齋藤飛鳥の作品「ミュージカル 齋藤飛鳥」がそうであったように、おおよそ5分前後という個人PVの尺の中に、いくつものオリジナルソングを詰め込んでひとつの展開を作っていく試みが、吉川の「みな天才だカーニバル!」でも行なわれているのだ。

 これらの作品群は、個人PVというフィールドをいかに自由な可能性をもつかの一例を示すものだ。すなわち、個人PVがここではひとつの音楽劇、あるいはミニアルバムを生成するような場として解釈されている。

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