高橋英樹インタビュー「今、興味があるのは悪役。善も悪も両方できてこそ初めて俳優だと思う」歴史を演じる【人間力】

日刊大衆

高橋英樹(撮影・弦巻勝)
高橋英樹(撮影・弦巻勝)

 ただの映画好きの青年だった私が、「日活ニューフェイス」としてこの世界に入ったのは17歳のとき。ただ、観ているのとやるのとでは大違い。最初は本当に、何ひとつできませんでした。

 入って3か月間は、劇団民藝に行って宇野重吉先生や滝沢修先生から演技の授業を受けました。でも、先生方がおっしゃっている言葉がもう、ちんぷんかんぷん。いやはや、ドシロウトがなるもんじゃないなと思いましたね。

 そんな私が、曲がりなりにも俳優としてやっていけるようになったのは、さまざまなことを教えてくださった方々のおかげです。

 デビュー作で姉役だった浅丘ルリ子さんからは、礼儀作法から始まり、公私にわたってありとあらゆることを教わりました。

 そして、歌舞伎俳優であり、日本舞踊藤間流の家元でもあった、2代目尾上松緑さん。任侠映画で着物を着ることになったときに指導してくださったのですが、着物を着ての所作はもちろんのこと、芸についてのすべてを導いていただきました。

 時代劇俳優として数多くの作品をやらせていただいた私ですが、そもそも着物を着ることになった理由は、短足だったからなんです(笑)。

 私もデビューからしばらくは、(石原)裕次郎さんや(小林)旭さんみたいなアクションもの、青春ものをやっていました。でも、会社から「おまえは何か格好がつかない。それは、脚が短いせいじゃないか。だったら着物で脚を隠してしまえばいい」と言われてしまったんですね。

 それから着流しを着て任侠映画を60本ほどやり、24歳のときに初めてカツラを被る時代劇に出演することになりました。それがNHK大河ドラマの『竜馬がゆく』です。

 北大路欣也さんが坂本竜馬で、私が武市半平太。水木洋子先生の脚本で、演出は和田勉さんでした。青年の若々しさや勢いを表現するために、難しい言葉が並ぶ膨大な台詞を、早口でしゃべることが要求されたのですが、あれはもはや“戦い”でしたね。

■長くない脚に感謝

 ただ、この作品以降、たくさんの時代劇に出演させていただけるようになりました。織田信長をはじめとする実在の人物、そして鞍馬天狗や桃太郎侍などの架空の人物を80役くらい演じました。

 歴史上の人物を演じるときは、その人物について、できる限り勉強します。本を読み、歴史家など専門の方からお話をうかがい、その人物が生きた土地に行って空気や太陽の光を自分の中に取りこみます。

 そんなことを続けているうちに、私は歴史の面白さに魅了され、すっかりトリコになりました。そこから、お城、刀、書と興味の範囲が広がっていき、人生が豊かになったと感じています。だから、長くない脚に感謝しなければいけませんね(笑)。

 日本の「芸」の歴史を知ることも、とても面白いですね。2020年から、NHKで『にっぽんの芸能』という番組の司会をやらせていただいています。毎週、いろいろな古典芸能を分かりやすく紹介する番組なんですが、これがもう非常に楽しい! 

 名人の方がスタジオに来てくださったり、若手の芸が見られたりと、私にとっては趣味と実益を兼ねた素晴らしいお仕事なんです。

 古典芸能も、歴史も、知れば知るほど興味深く、もっと知りたくなる。もう、キリがありませんね(笑)。

 その一方、俳優として今、興味があるのは“悪役”です。『桃太郎侍』など、正義の士は数多くやらせていただいて来ましたが、正義が際立つのは良い悪役がいてくれてこそ。

 私は、善も悪も両方できてこそ初めて“俳優”だと思っています。そういう意味でも、今の私だからできる悪役というのは、今後やってみたい役の一つ。「高橋英樹」という俳優を育ててくれたすべての方々への恩返しも含めて、ぜひお見せしたいですね。

高橋英樹(たかはし・ひでき)
1944年2月10日生まれ。千葉県出身。1961年に日活ニューフェイス5期生として日活に入社し、映画『高原児』でデビュー。以降、特に時代劇を中心に数多くのヒット作に出演。代表作として、映画『男の勲章』シリーズ、ドラマ『桃太郎侍』(日本テレビ系)、『三匹が斬る!』(テレビ朝日系)、NHK大河ドラマ『国盗り物語』『翔ぶが如く』などがある。現在は、バラエティ番組でも活躍中。

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