「鎌倉殿の13人」和田一族滅亡、義時の目にも涙…第41回放送「義盛、お前に罪はない」振り返り

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「鎌倉殿の13人」和田一族滅亡、義時の目にも涙…第41回放送「義盛、お前に罪はない」振り返り

ついに始まった和田合戦。鎌倉の街を火の海にした『吾妻鏡』屈指の名場面がどう描かれるか、不謹慎ながら胸躍らせた視聴者も多かったのではないでしょうか。

決して戦さはしないと源実朝(演:柿澤勇人)に約束しておきながら、息子たちの暴走によって開戦のやむなきに至った和田義盛(演:横田栄司)。一方、戦さを避けられたと安堵していた北条義時(演:小栗旬)は謀られた形となってしまいました。

果たして三谷幸喜は和田合戦をどのように描き上げたか、第41回放送「義盛、お前に罪はない」を振り返って行きましょう。

飲んだ起請文は吐き出せばOK?三浦義村たちの裏切り

義時と内通していながら、巴御前(演:秋元才加)らに起請文を書かされてしまった三浦義村(演:山本耕史)たち。

義盛が「裏切るならすぐに裏切れ。従兄弟同士だから暗殺は忍びないが、戦さ場では容赦しない」と言うので、お言葉に甘えて当初の予定通り北条へ寝返ります。

牛王宝印の起請文。この裏面に誓いを書き、燃やした灰を神水に溶いて呑み込んだ。画像:Wikipedia(Utudanuki氏)

しかし、飲み込んでしまった起請文はどうしましょうか。「いい考えがある」と八田知家(演:市原隼人)の提案で吐き出すことに。

「これ、意味あるんですか?」

「やらないよりマシだ」

飲んでしまった起請文は、たらふく水を飲んで吐き出せばいい……三浦胤義(演:岸田タツヤ)が呆れる通り、書き上げた起請文は焼いた時点で神様が聞き届けているもの。

灰を溶いた水を飲むのは、言ってみれば契約書の手元控え。吐き出したところで「書類を捨ててしまったから、契約は解消されました」というのは無理があります。

とは言え気休めでもやらずにはいられません。どうしても吐き出せない長沼宗政(演:清水伸)に知家が「俺の指を使え」とねじ込み、なんとか吐き出せました。

劇中の描写を見る限り、胤義はけっきょく吐き出さなかった模様。これが後に非業の死を遂げる伏線となるのでしょうか。

北条泰時・北条朝時兄弟の活躍ぶり

さて、いよいよ戦闘が始まろうとしています。御所の西門を守るよう命じられた北条泰時(演:坂口健太郎)ですが、謹慎をくらったヤケ酒で酔いつぶれたままです。

平盛綱(演:きづき)がビンタを喰らわせても目を覚まさず、ついには(演:福地桃子)が桶の水をぶっかける始末。さすがに目の覚めた泰時に対して「アラどうしたの?」とばかりとぼけた表情が秀逸でした。

俺たちの北条泰時、実は和田合戦の際に二日酔いだった件 『吾妻鏡』より【鎌倉殿の13人】

以来、泰時を起こす時は水をぶっかけるようになったみたいですが、さすがに盛綱は柄杓で水をかけるという優しさ。泰時も、起きられないと分かっているなら酒を呑まなければ……やっていられないんでしたね、ハイ。

さて、いよいよ戦闘が開始され、和田勢の一斉射撃を持ちこたえる泰時たち。恐怖に耐えかねたか北条朝時(演:西本たける)は足に矢を受けた演技をして戦線離脱。

一瞬こそためらいを見せたものの、最後はスタスタと去っていきました。どこへ逃げるんでしょうね(逃げ出して無事に助かる保証もなければ、生き延びた後の誹りも免れません)。

兄・泰時を追い駆ける北条朝時。この後、朝比奈義秀に勝負を仕掛け、その武勇に免じて謹慎を解かれた。歌川豊国「和田合戦図」より

劇中では卑怯者として泰時の引き立て役に徹している朝時ですが、『吾妻鏡』では豪傑・朝比奈義秀(演:栄信)に一騎討を挑むなど勇猛なところを見せています。

その活躍をもって再び御家人の列に復帰したのですが、大河ドラマでは泰時に取りなしてもらった形にアレンジされていました。ちょっと残念ですね。

それにしても。泰時の奇策?で和田勢を制した(劣勢を逆転した)描写がされる本作の和田合戦。近くの民家から戸板を徴発して盾を作り、和田勢の矢を無力化して距離を詰める迫力シーンが演じられました。

しかし正直「これって火をかけちゃダメなんですか?ただの戸板みたいですけど難燃加工でも施したんですか?それともCo2(二酸化炭素)を出さないよう配慮してるんですか?」というのが率直な感想。和田勢には何か縛りでもあるのでしょうか。

諸事情によって火がつけられないなら、御所の門を破壊した掛矢(かけや。破城槌)でも容易に突破できるはずです。和田殿はいったい何をうろたえているのか……和田贔屓も手伝ってか、非常に焦れったい展開でした。

消化不良な合戦場面と、巴御前の退場

全体を通して迫真の演技に魅せられた本作の和田合戦ですが、せっかく登場させた朝比奈義秀はじめ、史料の設定があまり活きていないように感じられました。

こと朝比奈義秀は神のごとき武勇を輝かすことなく、ただ「一族の中でも血気盛んな武闘派の一人」程度にしか描かれなかった印象です。

御所の惣門を素手でぶち破る朝比奈義秀。荒唐無稽と言わば言え、その鬼神がごとき怪力にこそ、人々は滅びゆく和田一族の意地を見たのだ。「和田合戦図屏風」より

前回時点で登場していない人物(横山時兼、土屋義清、古郡保忠など)については既に割愛を覚悟していたものの、せめて義秀だけでもと望みを賭けていたのは、筆者だけではないでしょう。

「さぁ始まったぞ。みんな必死に戦っているな。これからあの名場面。楽しみだ!」

……あれ。御所の惣門は普通に破城槌で突破されたし、惣門を守ろうと内側から抑える描写もない。御所を残らず焼き払いもしなければ、義秀らが敵の大軍に殴り込んで「無双」するシーンもありません。

せめて義秀が人並外れた怪力を魅せる描写は欲しかったところ。和田勢の奮戦を象徴(集約)する存在として義秀に期待していた分、何だか消化不良な感じです。

「早くお逃げ下され……」

由比ヶ浜で待っていた巴御前に義盛の討死を伝え、力尽きた義秀。巴御前がその頭に触れた(撫でた?)のは、義秀が巴御前の子であるとする伝承(『源平盛衰記』など)を暗示したのでしょうか。

それにしても、義秀の扱いが軽く感じられてなりません。高麗まで渡れ(※『和田系図』)とは言いませんが、せめて『吾妻鏡』にある通り上総国へ渡って再起を図るくらいのしぶとさは見たかったものです。

さて、義秀最期の報告を受けて、巴御前は決意しました。

「俺は必ず生きて帰る。その時にお前がいなかったら、俺、困っちまうよ」

義盛の言葉に従い、鎌倉を脱出した巴御前(イメージ)春亭筆

出陣前、義盛の言葉を聞いて思いとどまった巴御前。義盛が死んだ以上、もはやこの世に未練はなかったものの、やはり義盛の遺言を守って生き延びます。

「我こそは忠臣和田義盛が妻、巴なるぞ!」

夫・義盛の直垂を身に着け、敵中を突破した巴御前。『平家物語』の木曽殿最期を思わせる退場の花道に、多くの視聴者が胸をすかせたことでしょう。

政子の言葉でやる気百倍!大江広元の無双ぶり

さて、戦さが始まる前に鶴岡八幡宮寺へ避難していた源実朝たち。しかし焼ける御所を見下ろすと、亡き父・源頼朝(演:大泉洋)から源家3代に伝わる祖父・源義朝(よしとも)の髑髏を忘れたことを思い出します。

「あれはもういいのです(危険を冒して取りにいく価値などなく、焼けるに任せておけばよい)」

そう諭す尼御台・政子(演:小池栄子)に対して「すべてはあれから始まった」と譲らない実朝。とは言えまさか自分で取りに行く訳にもいかず、警護の八田知家も持ち場を離れられません。

すると名乗り出たのが、政所から重要書類を運び出してきた大江広元(演:栗原英雄)。日ごろは(比較的)雅やかな文官ですが、この切羽詰まった「やる時はやる感」あふれる襷がけスタイルが素敵でしたね。

尼御台への思いが、広元を最強にした?(イメージ)

広元の申し出に対して「この御恩、一生忘れません」と手をとる政子。今週もいい感じです。広元もちゃっかり(しかし、そっと)手を握り返してやる気百倍。単身太刀を奮って大江無双、御所を占領した和田勢を次々に仕留めて任務を達成しました。

もちろん史実『吾妻鏡』にそんな描写はない(あるのは政所から重要書類を運び出すくらい)ですが、華麗に太刀を奮う広元の演技は従来のイメージをくつがえす斬新さでした。

今後、広元と政子の関係は残り少なくなった癒し枠として人気を集めることでしょう。

泣いて戦場を背にした義時の胸中

激闘の末、実朝に忠臣と認められて闘志を失い、喜びに胸を張った和田義盛は三浦義村の裏切りによって矢衾(やぶすま。全身に矢が突き立った状態)に。本作で見られなかった弁慶(演:佳久創)の立ち往生を髣髴とさせるものでした。

「……これが鎌倉殿に取り入った者の末路にござる!」

凄まじい最期の怖気を奮うため、あるいは自分の正当性を強調するため、義時は声高に宣言します。

和田は忠臣などではなく、鎌倉殿に取り入ろうとした阿諛奸佞(あゆかんねい。邪心をもって主君におもねり、へつらうこと)の徒に過ぎない。あるいは義時の嫉妬も混じっていたのでしょうか。

そりゃ和田殿はいいでしょうよ。面倒な政務は「お前に任せる」といわば押しつけ、日ごろブラブラして気が向いた時に実朝の遊び相手になっていれば、さぞ気に入られることでしょう。

たとえ嫌われようと、言わねばならない事もある……が、本作義時の場合はほぼ私欲に基づくものなので、同情されない。守川周重筆

でも、政治の現実はそうとばかりも行きません。嫌われたって言わねばならぬことはありますし、やらねばならぬ課題も山積みです。

そうしたいわば汚れ役の実務を引き受けてきた義時にしてみれば、意図せずも鎌倉殿を篭絡する義盛は、まさに最大の脅威だったことでしょう。

とは言ってもやはり憎めない古なじみだった義盛の死を直視できず、背を向けて立ち去った義時。その表情は、かつて「黙って米蔵で木簡を数えていた若者」のものでした。

……だがしかし待って欲しい。和田一族の粛清はほぼ100%義時の野心、「坂東武者のてっぺんに立つ(立ち続ける)」ため私利私欲で起こしたこと。

殺した以上、それを最後まで見届けるべきではないでしょうか。固瀬川のほとりに並べられた義盛以下234の首級を。まさに「あなたは見るべきだ!」というものです。

終わりに

かくして終結した和田合戦。義盛を喪った悲しみに、実朝は覚悟を決めます。

「鎌倉を、源氏の手に取り戻す」

今や北条氏≒義時のお飾りと成り下がっている鎌倉殿の存在を、鎌倉の実権者に押し上げる。そして安寧の世を作り上げる。それはすなわち、義時との対峙を意味しました。

父や兄を超える鎌倉殿となり、安寧の世を作る決意を固めた実朝。そのためには、義時の存在が障害になる(イメージ)

京都の後鳥羽上皇(演:尾上松也)を仰ぐ実朝を諫める義時。しかし実朝は「この鎌倉に信じられる者はいない」と拒絶します。

「下がってよい(≒下がれ)」

実朝が亡き頼朝・源頼家(演:金子大地)の父兄2代を超えようとしている。危機感を抱く義時の描写は、後の実朝暗殺事件における黒幕説をほのめかすようです。

山は裂け 海はあせなむ 世なりとも
君にふた心 わがあらめやも

※源実朝『金槐和歌集』より

【意訳】たとえ山が裂け、海が干上がってしまうような世であろうと、君(主君≒後鳥羽上皇)に二心を抱くようなことはございません。

実朝が後鳥羽上皇に贈った歌を読んで「ちぎれんばかりに尻尾を振っている」とほくそ笑む藤原兼子(演:シルビア・グラブ)そして慈円(演:山寺宏一)。合戦後間もなく起きた大地震と言い、まだまだ鎌倉は前途多難のようです。

次週の第42回放送、サブタイトルは「夢のゆくえ」。実朝が陳和卿(演:テイ龍進)と意気投合、宋へ渡るため大船を建造するのですが……果たしてどうなることでしょうか。

また久しぶりに丹後局(演:鈴木京香)も登場、今度は政子に何を教育しているのか、とても気になるところです。

和田一族の滅亡によってしばしの平穏(意:大規模な兵乱がない状態。決して流血がなかった訳ではない)が訪れた鎌倉。しかしその内情は平穏とは程遠く、義時と実朝の対立が深刻化していくのでした。

ラストスパートに向けて、なおも厳しさを増していく「鎌倉殿の13人」。ついに和田殿の癒しもなくなってしまいましたが、ぜひ最後まで見届けたいものです。

※参考文献:

石井進『日本の歴史(7) 鎌倉幕府』中央公論社、2004年11月 五味文彦ら編『現代語訳 吾妻鏡 7頼家と実朝』吉川弘文館、2009年11月 笹間良彦『鎌倉合戦物語』雄山閣出版、2001年2月 細川重男『頼朝の武士団 鎌倉殿・御家人たちと本拠地「鎌倉」』朝日新書、2021年11月 三谷幸喜『NHK大河ドラマ・ガイド 鎌倉殿の13人 完結編』NHK出版・2022年10月

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