中国で「デスノート」が発禁…日本のアニメが一網打尽されるワケ
6月8日、中国文化部は、日本のアニメの取り締まりを強化しました。この日、50以上のアニメがブラックリストに指定され、8つの日本漫画サイトが閉鎖される事態となりました。
有害アニメに指定されたのは、『奇生獣』や『東京喰種』『進撃の巨人』をはじめとする暴力的でグロ描写が激しい作品、また、『学園黙示録』『だから僕は、Hができない。』『ハイスクールD×D』などエロ描写のある作品。
更に、今回は2000年に放映が終了した『桜通信』などのように、15年前の作品にもさかのぼるという念の入れようでした。まさに日本の作品が一網打尽にされる事態となり、中国のアニメオタクたちは悲痛な叫び声をあげたのです。そんななか、今回、僕が特に取り上げたいのは『デスノート』と、『残響のテロル』という2つの作品です。
前回は、少年Aの『絶歌』の出版は中国だとあり得ないという話を書きましたが、実は、中国においては、仮に小説のようなフィクションであったとしても、主人公が犯罪者だという設定だと出版は難しいのです。
主人公はあくまでも正義
例えば、北野武の『アウトレイジ』のキャッチコピーは「全員、悪人」ですが、全員、悪人の物語なんて中国だとあり得ません。主人公はあくまでも正義ではなくてはならないのです。仮に中国で犯罪をモチーフにした物語を作るのならば、主人公は警察官のような正義の側に立つ人物にしなければなりません。
普段、僕ら中国人は、こうした一般的な勧善懲悪ストーリーしか見ていません。抗日ドラマにおいて、日本兵が血も涙もない徹底した悪として描かれるのも、こうした中国式の物語作りの事情が大いに関わっているものと思われます。
ですから、日本の変化球のストーリーを見ると、違和感を覚えます。例えば、生徒たちが殺し合いをする『バトルロワイヤル』なんかがその一例です。最後に生き残った主人公というのは、つまり、人殺しのトーナメントを勝ち上がった一番の人殺し(=大悪党)に他なりません。中国人の感覚で言うと、狂っているとしか言いようがない物語設定です。
そして今回、取り締まりの対象となった『デスノート』も、同様に多くの中国人に衝撃を与えた物語でした。これは、「ノートに名前を書いたらその者が死ぬ」デスノートを手に入れた夜神という青年が、ノートに犯罪者の名前を書き連ね、次々と世の中から抹殺していくストーリーです。次第に彼は、犯罪者だけではなく、自分を追い詰めてくる警察官やFBI捜査員の名前も書き、悪の道へと染まっていきます。
この斬新な漫画(アニメ)は、中国でも大ヒットしましたが、2007年、中国政府は「子どもの人格形成に深刻な影響を与える」と発表し、漫画や海賊版のDVDを回収しました。政府にしてみれば容認しがたい物語設定だったのです。そして今回のアニメ規制においても、しっかりと『デスノート』をブラックリストに記載したのでした。
なお、テロリストの少年たちが主人公の『残響のテロル』も、『デスノート』と同様、犯罪者の視点から描かれた物語です。とりわけ、ウイグルやISISのテロを警戒している中国政府は、特にこのアニメを問題視しており、中国中央国家文化部は4月1日にも名指しで批判しています。
中国政府はアニメを成長産業と位置付けており、現在、国内では多くのアニメーターが生まれています。ですが、政府がやっていることはあべこべです。今回の規制強化により、ますます中国人のクリエーターの想像力の芽は摘み取られ、狭い枠の中でしか物語が作れなくなってしまったのです。
日本アニメは多様性のある物語を生み出し続けていますが、中国アニメは向こう100年ぐらいの間は、逆立ちしても勝つことはできないでしょう。
著者プロフィール
漫画家
孫向文
中華人民共和国浙江省杭州出身、漢族の31歳。20代半ばで中国の漫画賞を受賞し、プロ漫画家に。その傍ら、独学で日本語を学び、日本の某漫画誌の新人賞も受賞する。近著に『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)
(構成/杉沢樹)