ロマン優光のさよなら、くまさん
連載第84回 映画『チョコレートデリンジャー』について 吾妻ひでお・原作、杉作J太郎・監督による映画『チョコレートデリンジャー』が約10年の年月をかけて、遂に監督の故郷である愛媛県松山市で公開された。公開されたといっても、地方での公開ということもあり、私も含めた出演者の多くが現在の形を未見であるという状態。付け加えるなら、公開後も未だに編集作業が加えられ続け、常に最新ヴァージョンが生まれていっているわけで、最終的な姿はまだまだ見えてこない。いや、そもそも、この映画には最終的な形というのは存在しないのかもしれない。ジャンルを逸脱し、映画的コードから離脱し、実験すら乗り越えた不定形な混沌、それが『チョコレートデリンジャー』なのかもしれない。
『チョコレートデリンジャー』の撮影に入る時点で、この映画がそのような存在になることを想像したスタッフ、出演者は誰一人いなかっただろう。杉作監督本人も含めて。
『任侠秘録 人間狩り』『怪奇!!幽霊スナック殴り込み! 』の2作品を経験した杉作監督及び撮影スタッフのスキルは確実に上がっていた。役者兼スタッフという形で多くの人が参加していた前2作に対して、衣装さん、メイクさんといったプロ経験のある専属スタッフも増えていた。出演者もプロの役者さんが増えていたし、ロケ先も多岐に渡った。予算も格段に増えていた。「原作の漫画をそのまま絵コンテとして使用する」という斬新なコンセプトによって方向性にも迷いなく、シナリオも非常にしっかりしていた。何より、主演は現役のメジャー・グラビアアイドルの松本さゆきだ。彼女を中心に据えて、低予算・出演者の多くが演技の素人などの縛りはあるが、前2作よりもわかりやすい、商業性の増した、ポップな小品ができあがると思っていた人がほとんどだったのではないのだろうか。(伴映作品も企画され、ある程度進行していたはずだが、私はそちらには直接関わっていないために詳細は不明だ)。
「監督が商業的完成度のより高い作品を撮ることで普通に評価され、最終的には一般的な商業作品を撮れるとこまで行けたらいいな」と思っていたし、あのまま順調に進行すれば『チョコレートデリンジャー』はそういう意味を含んだ作品になっていたかもしれない。