前回のあらすじ
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今は昔、武蔵国から衛士(えじ)として京都に駆り出されてきた一人の男。
故郷が恋しいあまり、ぼんやりと「酒甕に浮かべた瓢(ひさご)が風に吹かれる光景」を思い出し、ブツブツと呟いていたところ、それを聞き留めた誰かが衛士に声をかけたのでした。
「その光景、前世で見たやも知れませぬ」「もうし、そこな衛士や」
声の主は女性のもので、そのさやかな響きから、聴いただけでやんごとなき方のそれと判ります。
「へへぇ、何でやしょう」
日ごろそんな方と言葉を交わす機会などないため、ぎこちなく答えて衛士が振り向くと、そこには皇女(天皇陛下の娘)にあらせられる姫宮さまがおわしました。