前世の記憶がきっかけで?平安時代のやんごとなき姫君と冴えない衛士の駆け落ちエピソード【二】 (2/3ページ)
「その話、いま一度聞かせてたもれ」
酒甕に浮かべた瓢(ひさご)など、そんな下らない話などを姫宮さまがご所望とは、一体全体どうしたことか……それともアレか、あまりの下らなさに、何かお咎めでもなさるのじゃろうか……?
などと一人思いを巡らす衛士の様子を察したのか、姫宮さまは優しく微笑みかけられます。
「何もとって喰うたりなどせぬ……汝(な=あなた、の古語)が話した酒甕の瓢、何ゆえか妾(われ)も前に見たような覚えがあるのじゃ……」
そんなまさか、酒が呑みたければ女官に酌ませるご身分の姫宮さまが、厨房の酒甕や、まして粗末な瓢など、噂話に聞いたくらいならともかく、見る機会など……。
そう訝しむ衛士に、姫宮さまがこんなことを言い出しました。
「もしかしたら、前世で見た記憶やも知れませぬ……そうじゃ、百聞は一見に如かずと言うし、一度妾を汝が故郷へ連れてたもれ」
二人で御所を脱出、いざ武蔵国へ!とんでもないことを言い出され、衛士は困ってしまいました。
いくら姫宮さまの願いとは言え、勝手に連れ出しなどしようものなら、打ち首どころの騒ぎではありません。
「いやいやいやいや姫宮さま、まことに滅相もねぇことで。吾(おれ)の故郷など、東夷(あづまゑびす※1)の棲む野蛮な土地でごぜぇやす。姫宮さまをお連れするなど、とてもとても……」
(※1)都から見て東の国に住む野蛮人(ゑびす)。ちなみに南なら南蛮(なんばん)、西なら西戎(せいじゅう)、北なら北狄(ほくてき)となり、どれも同じ意味です。
