政界入りしたその日から目標は総理のイスで、そのためには人からどう思われようと耳目を集めることなら何でものパフォーマンス、その一方で時の権力に対する嗅覚も抜群、縦横に立ち位置を変える「風見鶏」ぶりを全開にした中曽根康弘は、いざ政権を握るとそのスタイルは一変して重心が低くなった。
当初は「直角内閣」「田中曽根内閣」などと揶揄され、田中角栄の影響下にある政権とみられていたが、田中が“名代”として内閣に送り込んだ後藤田正晴官房長官と歩調を合わせ、官邸主導で次々と大仕事に取り組んだ。現在の安倍晋三政権も「官邸主導」とされているが、同じ政治手法でも中曽根のそれには透明性があった。
高潔、知謀、そのキレ味から「カミソリ」との異名もある後藤田の存在が、内閣はもとより自民党への抑えとなり、政策はオープン、スキャンダルなど不祥事の露呈も、ほとんどなかったのである。
例えば、時のタカ派文部大臣が自らの歴史認識を発言して物議をかもすと、中曽根はこれを更迭、ボヤが政権の大火事となるのを消し止めるといった具合である。この一件も後藤田の「危機管理術」を、中曽根がのんだうえでの更迭だったことは明らかだった。
そうした中で政権運営の核に「戦後政治の総決算」を掲げ、外交面では時のロナルド・レーガン米大統領を相手に、「ロン」「ヤス」とファーストネームで呼び合うなど親密な関係を築き、冷戦時代の対ソ連(現・ロシア)戦略をにらみながら、「日米は運命共同体」として西側陣営での発言力確保に腐心していた。
一方、内政面では前任の鈴木善幸政権が手をつけた「第二臨調」を活用、日本電電公社、日本専売公社、日本国有鉄道の三公社の分割民営化、あるいは規制緩和を進め、国債の依存度を下げることにも成功している。民間活力を重視、行政改革、財政再建を実現するために、それまでの政権による経済政策を改め、「小さな政府」に舵を切ってもみせた。
こうした裏では、常に各省庁の官僚を巧みに活かし、動かす後藤田の才覚が目立っていた。政権が「官邸主導」で次から次へと仕事をしてしまうため、自民党内では人気がなかったが、こうした機敏な政権運営には国民から大きな支持があった中曽根政権だったのである。
田中角栄「怒涛の戦後史」(15)元首相・中曽根康弘(下)
2020.01.13 06:00
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