人は自分に余裕がない時ほど、他人に対して寛容になれず、優しさを持てないもの。ギスギスした言葉が飛び交う今だからこそ、身の回りにいる人や、自分の想像の外にいる「誰か」に優しくありたいものだ。
『小節は6月から始まる』(幻冬舎刊)は、シングルマザーとして喫茶店を切り盛りしながら幼い子どもを育てる主人公が、彼女を私心なしで支える周囲の人々との交流を通して成長していく様子を描く。本来持っていたのに、いつのまにか忘れがちになった優しさや気づかい、思いやりについて思い出させてくれる一冊だ。
今回は著者の青山太洋氏にインタビュー。この物語に込めた思いについて語っていただいた。その後編をお届けする。
■悪役を無理に作らない ヒューマンドラマ『小節は6月から始まる』の創作技法――作中に「悪い人」が一人も出てこないのがユニークでした。ここまで徹底的に「やさしさ」や「人の温かさ」を書いたのはなぜだったのでしょうか?
青山:それは私が善人だからです(笑)。というのは冗談で、私のまわりに、本編に登場するキャラクターたち以上に優しくて、誠実で、思いやりのある人が多いからだと思います。書いている時は意識しなかったのですが、こうなってしまいました。
――たいていの小説は誰かしら「悪役」がいるものなので、この小説を読んでいる時も「この人の良さそうなおじさんが実は……」と勘ぐりながら読んでしまいました。結局そんなことはなかったのですが。
青山:そうなんです。いい人のままという。
――未代と訳あって別れた園井が戻ってきた時、「もしかして悪い人になっているんじゃ…」と思ったのですが、取り越し苦労でした。
青山:一瞬「悪くしようかな」とは思ったのですが、無理やり悪役にするのもおかしいじゃないですか。