乃木坂46「個人PVという実験場」
第20回 乃木坂46が「人間ならざるもの」を演じるとき 3/5
前回更新分では、2016年の渡辺みり愛の個人PV「わたしのみかた」(監督:タナカシンゴ)をとりあげた。このショートドラマで渡辺が演じたのは、雨模様のときにだけ姉のもとにやってくる妹の役だった。
渡辺演じる妹はすでに生身の人間でなく、降雨とともに姿を現し、雨が上がって陽が差すと同時に消え去ってしまう。彼女にとって雨とは、姉と自分とをつなぎ、また母との思い出を現前させるための装置であった。
降雨とはその性質上、ごく一時的なものにすぎない。姉妹の穏やかな邂逅は容赦なく訪れる雨止みによってあっさりと終わりを迎え、妹は雨とともにあるべき場所へ帰っていってしまう。とはいえ、人間ならざる存在である妹のマイペースな佇まいによって、本作は哀感よりもむしろどこか軽やかな、不思議な後味を残すドラマになっていた。
■伊藤理々杏の「moon,」
「わたしのみかた」を手がけたタナカシンゴはこののち、乃木坂46の22枚目シングル『帰り道は遠回りしたくなる』で企画された個人PVにおいて、今度は伊藤理々杏の個人PV「moon,」を監督し、やはりドラマ型作品に仕立てている。
「moon,」で伊藤が演じるのも、「わたしのみかた」とは異なる位相ながら“人間ならざるもの”であり、タナカによるこれら2作品は主人公の性質において同系列にある。