私は千葉県木更津の生まれで、絵ばっかり描いている少年だったんです。そこで、美大に入ってパリに留学したところ、「塩と砂糖を描き分けろ」って試験が出た。
そんなの無理だよと思ったんだけど、ブラジルから来たヤツが描いたのを見ると、どっちがどっちか、ちゃんと分かるんだよね。
ああ、こりゃ俺に絵描きは無理だと思って俳優の道に進んだわけだけど、役者になってみて分かったね。
似せようとしたから、描けなかったんだ。「これはしょっぱい塩だ」「甘い砂糖だ」という気持ちで描けばよかったんだということが。
絵と芝居はよく似てると思うんだ。私は芝居をやるとき「この役はどんな色だろう?」と考えるし、風景画を描いているときは、「あの窓からはニンニクを炒める匂いが漂ってきている」と想像する。そうすることで、役のたたずまいが立ちのぼってくるし、絵にはドラマ性が生まれる。
映画もそう。いい映画っていうのは、時代の色あいや匂いが映っている映画だと思っていますね。
私は台本をもらったら、この男は何を着て、どんな眼鏡をかけ、どんなかばんを持つだろうと細部にわたって監督と話し合います。だから、家には眼鏡やら時計やら、もちろん“ねじねじ”のストールが山のようにありました。
そう。「ありました」と過去形。2017年に病気をしたのを一つのきっかけに、ありとあらゆるものを処分したんです。いわゆる、終活ですね。だって、私と(奥さんの池波)志乃には子どももいないし、残しておいたって邪魔なだけだからね。
■終活の基本は「もったいない」と思わないこと
終活の基本は「もったいない」と思わないこと。どうしても迷う物があったら、1週間置いておいて夫婦で相談して「やっぱり必要」と思ったら、残す。そうすると、ほとんどの物が必要じゃないね。写真なんて、1枚もない。全部燃やしちゃったから。
一般的には女性のほうが物への執着があるみたいだけど、うちの場合は志乃のほうが潔いね。もう、どんどん捨てちゃう(笑)。
今は食事が楽しみだね。