早春の光が差し込む朝、森の奥のクマザサの葉の上で生まれた一滴の水の粒が繰り広げる、小さな大冒険。
『ひとしずく』(幻冬舎刊)は岩手県出身の今明さみどりさんによって書かれた児童文学で、前述の通り主人公は「一滴の水の粒」だ。「透明でどんな色も反映する」という純真な「ひとしずく」に、読者は自分自身を投影するはずだ。
今回は作者の今明さんにインタビューを行い、『ひとしずく』という物語についてお話をうかがった。その後編では岩手県出身の児童文学作家・宮沢賢治の影響や、ストーリーを彩る挿絵について語ってもらっている。
(新刊JP編集部)
■岩手にとって「宮沢賢治」は日常生活に浸透している存在――この物語の中で流れている時間の対比についてもうかがいたいのですが、「ひとしずく」がこの物語の中で過ごしている時間の長さと、「ひとしずく」がいる森に流れる時間の長さは違いますよね。その対比について、意識したことはありましたか?
今明:その対比については実は意識をしていなくて、逆に今、質問を受けて、自分にとって新しい発見になりました。確かに言われてみると、「ひとしずく」が無我夢中になっている時間の流れと、森という不変の象徴となっている場所の時間の流れは対比になっていますよね。
その一方で、「ひとしずく」にも森の時間の流れに通じる、太古からの時間が流れているとも思っています。最初にこの物語のアイデアを思いついたときに、北極の5000万年前の氷が解けて川海に流れ出した「ひとしずく」が世界と出会う、という始まり方もあると思ったんですよね。そういう意味では、今回の「ひとしずく」も不変の存在の一部だなという悠久の感覚をもって描いていたところはあります。
――なるほど。「ひとしずく」はクマザサの葉の上で生まれたばかりだけど、実はその透明な体は太古からの時間を背負っている。先ほどの循環の話ではないですが、そういう風に捉えることもできますね。
今明:はい。