低迷するフジテレビ、「新・懐古主義」で反撃なるか

「どぅんつくぱ〜音楽の時間〜」(フジテレビ)公式サイトより

【ラリー遠田のお笑いジャーナル】

 お笑い評論家のラリー遠田が、気になるお笑い事情に鋭く斬り込むこの企画。今回は、『クイズ30』『ジャネーノ!?』『テラスハウス』『新堂本兄弟』など多くの番組を終了させて、大改革に乗り出したフジテレビのお話。

一度見たら忘れられない、強烈な個性を持った番組がスタート

 ここ数年、フジテレビは視聴率低迷に苦しんでいる。2011年度には日本テレビに敗れて民放の年間視聴率トップの座から転落し、2012年度以降はテレビ朝日にも追い抜かれ3位に。1982年度から1993年度まで12年連続で視聴率三冠王(全日、ゴールデン、プライム)を獲得して、栄華を極めていたかつての面影はない。そんなフジテレビが、この10月の番組改編では攻めの姿勢を打ち出し、多くの番組を終了させて新番組にリニューアル。待ったなしの大改革に乗り出した。

 新番組の中で個人的に気になったのが『どぅんつくぱ〜音楽の時間〜』と『ヨルタモリ』だ。どちらも、一度見たら忘れられない、強烈な個性を持った番組である。『どぅんつくぱ〜音楽の時間〜』は、子供番組の皮をかぶった音楽番組。セットと衣装はとにかくポップでカラフル。MCを務めるのは子供2人と女優・歌手の西内まりや。人形のオリジナルキャラクターも何体か登場して、ゲストのアーティストととりとめもないトークを繰り広げる。アートディレクターを務めているのは、バナナマン、バカリズムなどのお笑いライブの舞台美術や、数々のバラエティ番組の美術制作を手がける奇才・ニイルセン。スタジオ、衣装、キャラクターの細部にまでこだわりが感じられる上に、全体的なまとまりもある。

 佐村河内守のゴーストライター騒動で話題を呼んだ、作曲家の新垣隆が出演して子供たちの素朴な疑問に答えたり、ロック歌手の逸話を紙芝居形式のイラストで紹介していくコーナーもある。番組のテンポが良く、余分な説明やツッコミを省いてサクサク進んでいく感じも心地よい。番組そのものが歌って踊っているような、異色の音楽バラエティ番組だ。

 一方の『ヨルタモリ』は、タモリと宮沢りえの番組。2人がバーのママと客という設定。タモリはクセの強いエセ関西人キャラに扮して、延々とどうでもいい話をして絡んでいく。その間に挟まれるVTRでは、タモリがさまざまなインチキ歌手、インチキ大学教授などに扮したコント映像が流される。

〝過去にあった何かを連想させる番組〟にした深い意図

 2つの番組に共通しているのは、〝過去にあった何かを連想させる番組である〟ということ。『どぅんつくぱ』は、同じフジテレビで放送されていた『ウゴウゴルーガ』(1992〜1994年)に似ている。主演の子供が男女2人、多彩なキャラ、子供番組のパロディ的な手法など、共通点は多い。ただ、『ウゴウゴルーガ』は「大人も楽しめる子供番組」だったが、『どぅんつくぱ』は23時からの放送枠であり、子供番組の体裁をとっているだけで実際には完全に大人向け、という点では異なる。『ヨルタモリ』は、昔のタモリの芸風を思い起こさせる。インチキ外国語などの「なりきり芸」は、どこまで本気でどこまでウソなのか分からない、どこまでが技でどこまでがただの悪ふざけなのか分からない。『笑っていいとも!』が始まる前のタモリは、こういう芸風の密室芸人というイメージが強かった。

 どちらも、昔のものを再興しているという意味では懐古主義的だが、決して古臭くはない。むしろ、それを古い世代の気を引くための「懐かしアイテム」としてではなく、新しいものを作るための「武器」として活用している。

 フジテレビの「懐古主義」には前例がある。2012〜2013年に放送された『アイアンシェフ』は、かつての人気番組『料理の鉄人』のリメイクだった。また、2013年に放送された浅野温子と浅野ゆう子の「W浅野」が主演を務める『抱きしめたい!Forever』は、トレンディドラマ全盛期のヒット作のリメイク。でも、今回の2番組は違う。古き良き時代をただ懐かしむだけではなく、今の時代に合わせた「新しい懐古主義」になっているのだ。

 この新・懐古主義は、「楽しくなければテレビじゃない」というフジテレビのDNAを目覚めさせるかもしれない。正直、2番組はどちらも始まったばかりで、荒削りで未完成な部分も目立つ。だが、新しいことを始めるというのはそういうものだ。視聴率低迷が長く続き、いい意味で開き直ったフジテレビだからこそ、こういう思い切った番組作りができるようになったのだろう。

 革命はいつも中心ではなく周縁から始まる。テレビの歴史のなかで大ヒット番組と呼ばれてきたのは、「セオリーではこんな番組は考えられない!」というものばかりだ。深夜専門のカルト芸人だったタモリがお昼の顔として生まれ変わった『笑っていいとも!』はその代表だろう。「グッドはグレートの敵である」(ジム・コリンズ著『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』日経BP社)という言葉がある。無難なものを作ろうとしている限り、真に偉大なものを生み出すことはできない。グレートな番組を作るために一歩踏み出したフジテレビの勇気は「買い」だ。『どぅんつくぱ』と『ヨルタモリ』は、フジテレビの反撃ののろしとなるに違いない。

ラリー遠田
東京大学文学部卒業。編集・ライター、お笑い評論家として多方面で活動。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務める。主な著書に『バカだと思われないための文章術』(学研)、『この芸人を見よ!1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある
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