【朝倉秀雄の永田町炎上】
小渕優子氏の政治資金をめぐる問題で、東京地検特捜部は10月30日、小渕氏の元秘書で群馬県中之条町の前町長・折田謙一郎氏の自宅などの家宅捜索に入った。議員たちはなぜ、秘書に足を取られるのか。
実はろくな人材が集まらない「議員秘書」
地元秘書に捜索の手が伸びるなど、小渕優子前経産相の「政治とカネ」の問題へ追及が続いている。先週には、後任の宮沢洋一経産相にも醜聞が飛び出した。宮沢氏の資金管理団体が、地元秘書の「SMバー」での飲食代を政治活動費として支出していたという低俗極まりないものだ。安倍内閣の一連の政治資金に関する議員たちの不祥事の裏には、必ずと言っていいほど秘書が絡んでいる。
では、時として主を窮地に追い込み、せっかく手にした大臣のポストまで棒に振らせる議員秘書とはいったいどのような人種なのであろうか。
議員秘書には、その法的身分によって国が給与を負担する「公設秘書」と、議員が私的に雇い入れる「私設秘書」とがいる。特別職国家公務員である公設秘書には、給与の高い順に「政策秘書」「第一秘書」「第二秘書」の区別がある。また、その勤務場所によって、永田町の議員会館内にある事務所に詰める「会館秘書」と、議員の地元を拠点とする「地元秘書」とに分かれる。
いずれにせよ、議員が落選すれば即、身分を失うし、議員の腹の虫の居所が悪ければ、いつ解雇されるかもわからない。それに、国会議員という人種には、松島みどり氏のように我儘で傍若無人な者が多いから、理不尽な言いがかりや面罵などは日常茶飯事で、ときには殴られることさえある。まるで“下僕”の扱いである。
さらに、議員に収賄や斡旋利得、選挙違反などの疑惑が持ち上がれば、「秘書がやった」と濡衣を着せられる。そんなすこぶる割の合わない仕事だから、まともな人材など集まるわけがない。小渕氏や宮沢氏の秘書のようにデタラメな政治資金の出し入れをしたり、SMバーに通う“変態人間”がいたりしてもいっこうに不思議はないわけだ。
私設秘書は「あっせん利得罪」が適用されない
なかには、議員を手のひらに乗せて自在に転がす者もいる。例えば、世襲議員である場合、父親の代からの「超大物秘書」だ。海千山千の彼らからは、若手議員などは世間知らずの「ひよっ子」にしか映らない。だから議員を侮り、さながら操り人形のように扱う。
小渕氏の父親の代から30年以上も地元秘書を務め、全責任を取る格好で中之条町長を辞職した折田謙一郎氏などはまさに、その典型だろう。折田氏は「国家老」と地元で呼ばれていた。実際、小渕氏は折田氏から「代議士ね、これはこうすべきなんだよ」といつも指示され、いっさい口ごたえできなかったというのだから、どちらが偉いのかわからない。当然、政治資金の出し入れを含め、何事も勝手放題に振る舞うようになる。そんな力関係の倒置が今回の小渕氏辞任劇の背景になっているように筆者には思える。
地元秘書の主な仕事は、後援会組織の“引き締め”や、新たな票の掘り起こしなど、来るべき選挙のための地盤培養にある。そのために毎日、「支持者まわり」と称して選挙区内を犬のように徘徊する。もっとも、議員は一年のほとんどは東京に常駐し、「金帰月来」といって、土日にしか地元に入らないというスケジュールであるから、議員の目が光っているときだけいかにも仕事をしているような振りをすればいい。
地元秘書の大半は私設秘書だが、公設秘書と違い、あっせん利得罪(正式名称は「公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律」)が適用されない。だから議員たちは私設秘書を使って公共工事に首を突っ込み、開発行為や農地転用など各種許認可に口利きをしてひたすら利権を貪ろうとする。
秘書は秘書で、「議員にだけ甘い汁を吸わせてたまるか」とばかりに名刺を振りかざし、土地の“顔役”たる立場を利用して金融事業者の斡旋をしたり、揉め事の仲裁役を買って出て「小遣い稼ぎ」に明け暮れる。こうなると、まさに「政治ゴロ」の所業としか言いようがない。
名目だけの「会計責任者」。本物の金庫番は裏に潜む
小渕氏の一件では、政治団体の「会計責任者」になっているはずの何人かが「自分は名前を貸しただけで、政治資金の扱いにも、収支報告書の作成にもいっさい関わっていない」と証言している。これは「会計責任者」が名目だけの存在で、真の「金庫番」は裏に潜んでいることを意味する。
どうしてそのような小細工が必要なのかといえば、これは政治資金規正法が、報告書の不記載や虚偽記載などの違法行為の法的責任を、議員本人ではなく会計責任者に負わせていることにある。もし議員の悪事の尻尾をすべて握る「真の会計責任者」が逮捕されたりすれば、議員にとっては命取りにもなりかねない。その点、何も知らないダミーなら、どんな厳しい追及を受けようが白状のしようがない。
いずれにせよ、この国の秘書業界は腐りすぎている。
- 朝倉秀雄(あさくらひでお)
- ノンフィクション作家。元国会議員秘書。中央大学法学部卒業後、中央大学白門会司法会計研究所室員を経て国会議員政策秘書。衆参8名の国会議員を補佐し、資金管理団体の会計責任者として政治献金の管理にも携わる。現職を退いた現在も永田町との太いパイプを活かして、取材・執筆活動を行っている。著書に『国会議員とカネ』(宝島社)、『国会議員裏物語』『戦後総理の査定ファイル』『日本はアメリカとどう関わってきたか?』(ともに彩図社)など。