ノゲイラ引退から考える「総合格闘技と日本人」 (2/4ページ)
この前年は、桜庭和志がグレイシー一族の選手を次々に破り、アントニオ猪木が送り込んだ藤田和之も、総合格闘技の世界で大成功を納めていた。
これを根拠にファンの間では、「関節技を使えるグラップラーは、キックボクサーや空手家よりも強い」という声が支配的だった。ホドリゴはその“世論”をさらに沸騰させた。
■ 「どの競技が一番強いのか?」
「どの競技が一番強いのか?」、柔道でもボクシングでも、なんらかの格闘技を観たことのある日本人男性なら、誰しも一度はこう考えたことがあるはずだ。
だが実は、これほどナンセンスな疑問はない。ボクサーとレスラーを競わせるのは、テニス選手と卓球選手を競わせるに等しい。もし総合格闘技のルールでどちらかが勝ったのなら、それは単に「総合格闘技のルールに適応したから勝った」ということだ。
ところが、日本人は昔から異種格闘技戦が大好きで、幕末のペリー来航の際には黒船に乗っていたレスラーを相撲取りと戦わせた。大相撲にしろ講道館柔道にしろ極真空手にしろ、「外国人レスラーやボクサーと戦って勝った」ということを宣伝材料にしていた時期がある。
早い話が、異種格闘技戦を経験していない競技は日本では一段低く見られてしまうのだ。
ホドリゴは、そんな日本人の“幻想”を大いに刺激した選手の一人だったのだ。
だからこそ彼は、怪物と戦うことになった。
■ 2002年8月28日
ボブ・サップ。元NFL選手で、格闘家としてのキャリアはない。だがその肉体は200センチ160キロ体脂肪率11パーセントという、まさに筋肉の塊だった。
サップは、その驚異的な肉体を相手にぶつけ、いくつもの勝利をもぎ取った。同時にこの出来事は、日本人にとっての“アイデンティティーの危機”でもあったのだ。
日本人は、「大きな身体の選手が突進して豪快に相手を叩きのめす」という展開の格闘試合を嫌う。
それよりも「小さな選手が繊細な技を駆使して大きな選手を倒す」というシナリオに拍手喝采を送る。