真夜中のホテルで、結婚式を見た話【ささや怪談】 (1/2ページ)
怖かった話はいろいろあるけど、仙台のホテルの話はどう?
そう言って、Sさんは人懐っこい微笑みを浮かべた。
Sさんは、アンティーク時計の修繕を生業としている職人だ。わたしは、よく彼から、京都やヨーロッパを舞台にした怪談を頂いている。
どの話も、こちらがゲッソリするほど怖いものばかりだ。
(そういった怪談はすべて、イベント用にストックしている)
「どんな話ですか?」
わたしは、今日も彼のアトリエを訪れて、怪談をせびりに来ていた。
そのホテルは、いまはもう無い。
「たしか、21世紀に入るか入らなかったぐらいの頃にね。仕事で仙台に来たんですよ。近所のバーで飲んで、ホテルに帰ってぐっすり寝てたらね」
ふと、目が覚めたのだという。
「虫の知らせっていうのかな。胸騒ぎがして」
すぐに、パジャマのままで、エレベーターに乗った。
「一階の自販機で、コーヒーを買って帰ろうかなって思ったんですよ。なんとなく、1階のロビーに行きたくなって」
ドアが開くと、鈴なりに人々が集っていた。
Kačka a Ondraさん撮影、Flickrより
「まるで結婚式でしたよ。真夜中なのに、正装した人たちがいたんですよ」
ウェディング・ドレスに身を包んだ女性と、タキシードを纏った男性を中心にして、礼服を着た老若男女が、輪になっていたのだ。その数は、30人ほどだった。
「ちゃんとロビーに電気がついていて、まるで昼間のようなんですよ。私が朝まで寝ぼけてたのかなって、その時は思いました」
人々は、口々に何かを話していた。しかし、会話の内容までは聞き取れなかった。
これから、どこかに出発するようだったという。何かを待ちわびたような雰囲気が、強く漂っていた。大勢の人々が、華やいだ雰囲気を身に纏っていた。しかし、誰一人として、Sさんには気が付いていないようだった。まるで、目には見えていないように。
「でも、真夜中だったんですよね?」
わたしは、そう訊き返した。
「ええ。