真夜中のホテルで、結婚式を見た話【ささや怪談】 (2/2ページ)
2時過ぎでした」
その時、Sさんは、こう思ったのだという。
「私ね、仲間外れな気がしたんです。ここに入ってきちゃいけない、この輪に入ってはいけない。来る時を間違えたんだって......。急にね、寂しくて、恥ずかしくなりました」
彼は、ただただ、立ち尽くしているばかりだった。
すると、ロビーにある柱時計が、鐘を3つ、鋭く打ち鳴らした。
「その時、部屋に戻らなきゃって思ったんです。それで、急いでコーヒーを買って、自分の部屋に戻りました。いま思うと、みっともない恰好だったでしょうね」
彼は、コーヒーを飲んで、すぐに眠りについた。翌日、フロントに尋ねてみたが、思っていたような答えは返ってこなかった。
ロビーで買ったコーヒーの缶は、ちゃんと捨てた。
それっきりのことだった。
「ところで、ロビーにいた人たちは、幽霊に見えましたか?」
「あれは人間でしたよ。間違いなく」
「話しかけてみようとは、思わなかったんですか?」
「いやあ、東北にはそういう風習があるんだなと思ったんです。それか、私が寝ぼけて時間を間違えたか、どっちかだなと」
「ついうっかり、地元に伝わる真夜中の結婚式に出くわした。そういうふうに、合理的な説明も出来ますよ。どんな幽霊でも、一応の解釈や説明は付けられますからね」
わたしは、それとなく、心にもないことを言ってみた。そうすることで、彼が、この話における真実のようなものを教えてくれる気がしたからだ。
Sさんは、穏やかな微笑みを浮かべて、こう返した。
「そうだとしたら、なぜ私は、こんな他愛も無い話を15年もずっと、忘れられなかったんでしょうね」
「それもまた、不思議なことですね......」
わたしたちは、アトリエのアンティーク時計の歯車の音に、耳を澄ませた。