【法律】地下鉄も「土地代」を払ってるって本当?
地下鉄に代表される「地中化」。建物や道路を気にせず進め、地上の交通をジャマすることもないので理想的な乗り物だが、地下鉄も土地の使用料を払っているのはご存じだろうか? 土地の所有権は空中/地下にも及び、土地の上下も持ち主のもの。頭上に電線を通すにも許可が必要だし、地下も勝手に掘ってはいけない。もし自宅の下に地下鉄が通ったら、土地を貸すかたちで使用料がもらえるのだ。
■「俺の空」は300m限定
土地を買えば所有権が発生し、ほかのひとが勝手に利用してはいけないのは説明不要だろう。所有権は上空にも地下にも及び、平面ではなく立体として「オレのもの」になる。これは地上権と呼ばれ、
・地上権ニ関スル法律
・民法・265条(地上権の内容)
など、もともとは土地のうえにある工作物や樹木の「所有者」の権利を定めたものだが、
・民法・207条(土地所有権の範囲) … 法令の制限内で、その土地の上下に及ぶ
と記され、つまりはその土地を基準に「上下もあなたのものです」を意味している。「何mまで」と範囲が決められていないので、基本的に「上空はすべてオレのもの!」な、驚くべきルールが存在するのだ。
自分の土地の上なら、宇宙も自分のものになるのか? 民法・207条をそのまま解釈すれば「オレの宇宙」が誕生するが、
・宇宙条約により、宇宙の所有権は認められない
・上空100kmを超えると「宇宙」
なので、100kmまでは「俺の空」と呼ぶことができる。ただしこれでは、誰かの家の上を飛ぶたびに「通行料」を支払わなければならないので、航空機はたまったものではない。そのため、航空機の最低安全高度を基準に、空中の権利は「建物の最上部から300mまで」ルールが一般的となっているのだ。
■地下40mでも「地上権」?
地下の権利はどうなるのか? これも「地上権」と呼ばれ、地下なのに地上権と禅問答のようなネーミングで、上空と同様に基本的には何mまでの制限はない。地球の中心まで「オレのもの」なのだ。もし自宅の下に地下鉄が通ったら、これにも地上権が該当するので「勝手に使わないで!」と主張できる。どうしても通したければ、土地の所有者に「使用料」を支払って「借りる」ことになるのだ。
ただしこれも現実的ではなく、地球の裏まで権利が及ぶと解釈すると、地球の半分しか住めなくなってしまうし、地下鉄はおろか、電柱をなくそう計画もメンドウクサい手続きだらけになってしまう。そこで2001年に生まれたのが「大深度地下法」だ。
大深度地下法では、
・地表から40m
・建物の「基礎部分」から10m
の、どちらか深いほうを基準に、それ以下の地上権は認められず、土地の所有者の許可なしで利用できる。標準的な住宅なら10mもの「基礎」があるはずもないので、50m以上深くを地下鉄が通っても、残念ながら使用料はもらえない。電線も同様で、「勝手に掘るな!」と抗議してもまったく意味をなさない。
余談だが、自分の土地に隣家の木がはみ出してきた場合、
・枝や実 … 隣家の「もの」なので、勝手に切ったり食べたりしてはいけない
・根 … 自分のもの扱い。無断で切っても構わない
と、これまたフシギなルールが存在する。落ちてきた柿やみかんを食べればドロボウになるが、地面から生えてきたものは「自分のもの」なので、どうせならタケノコが生えてくることを祈ろう。
■まとめ
・土地の上空と地下は「所有者」のもの
・民法・207条では高さ/深さの定めがない
・地下にも「地上権」があり、ほかのひとが使う場合は「使用料」を請求できる
・現実的に「オレのもの」と呼べる空間は、上空300m〜地下40mまで