新しい警察小説『影の中の影』の創作秘話――月村了衛インタビュー(前編) (3/4ページ)

新刊JP

主人公のニコライ・ヘルは西洋人ですが日本育ちで、戦中戦後の日本で孤児として過ごし、数奇な運命を経て日本の軍人に育てられます。その過程で日本の“囲碁”を通して、その真髄である“渋みの境地”に達し、「世界最強の殺し屋」と呼ばれるまでになる。
これ、日本人が聞くと「はあ?」という感じですよね。

――たしかに。「囲碁」と「殺し屋」は結びつきません。
 
月村:要するに「わび・さび」を表現したかったんでしょうが、日本的な「わび・さび」や「禅」の感性を身につけた世界最強の殺し屋、と言われても我々日本人にはピンとこないでしょう。でもそれが欧米の読者には受けたんです。日本でも広く読まれました。
ところで、かつては「最強の殺し屋」と呼ばれたニコライ・ヘルですが、もう引退して隠居しています。そこに、ある少女がやってきて、助けを求める。70年代の小説ですから少女を追っている勢力にはオイルマネーが絡んでいて、背後にはアメリカがいます。ニコライからしたら助ける義理はないんだけど、彼はその少女を助ける。これが冒頭です。
こんな始まり方だと、その後も少女を追う巨大な敵とニコライの戦いが全編にわたって繰り広げられると思うじゃないですか。でも、実際はそうじゃなくて、冒頭の1割が終わると、後の8割はずっと日本の戦中戦後の話で、ニコライがいかにして“渋みの境地”に達したかという話が延々続く、つまり「回想」がずっと続くわけです。そして、ラストの1割で少女を追う敵を倒してパタパタっと決着がつく(笑)。
「回想」が主になってしまっていて妙な造りのように思えますが、冒険小説ってそういうのが読みどころだったりするんですよ。『シブミ』でいえば、異文化である日本で成長していくニコライの姿こそが読みどころなんです。ただ、同じような構成の小説を今私が書いても絶対受け入れられないでしょう。

――8割が回想シーンでは、読者は戸惑うかもしれませんね。

月村:そう、ずっと回想なんです。似たような構成の小説だとデンゼル・ワシントン主演の「マイ・ボディガード」という映画の原作になっているA.J.クィネルの『燃える男』もそうですね。
酒で身を持ち崩した元兵士が人にあっせんされて、ある女の子のボディガードをすることになる。

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