新しい警察小説『影の中の影』の創作秘話――月村了衛インタビュー(前編) (4/4ページ)

新刊JP

その仕事を通じて彼は立ち直りかけるんですけど、ある陰謀に巻き込まれて女の子が殺されてしまい、再び彼はどん底まで落ちてしまう。その後は普通なら、主人公が絶望から這い上がって、女の子を殺した勢力との戦いがメインのストーリーになると思いますよね?

――違うんですか?

月村:そうはならないんですよ(笑)。最終的に女の子の仇は討つんですけど、それは最後の最後だけで、そこまではシチリア島に行って漁師と一緒に魚を獲ったり、海を眺めたり、畑を耕したりという場面が延々と続く。つまり、メインはどん底に落ちた男が立ち直る過程なんです。
70年代、80年代までは、そういった登場人物の「魂の遍歴」を書いた物語も冒険小説として受け入れられていたんです。内藤陳さんや北上次郎さんが冒険小説論を打ち出しておられた頃は、「冒険小説」っていうのは国際謀略小説もあり、ポリティカルフィクションもありと、広くエンターテインメント小説を包括する概念でした。でも、今は海賊ものだとか「インディ・ジョーンズ」のような物語だけが冒険小説だと思われているところがあります。
そういう状況の中で読者に受け入れてもらえる小説を書いていかないといけないわけですから、『シブミ』や『燃える男』の魂が入っているものを書くとしても、同じような構成にするわけにはいきません。だから、現代を舞台にしつつ、過去がメインにならない程度に主人公の回想を入れるという構成にしました。

――その主人公が「カーガー」こと景村瞬一ですね。彼はある事件をきっかけに世界の闇の部分で生きることを決意した元エリート警察官ですが、強さと優しさを兼ね備えていて魅力的でした。

月村:ありがとうございます。先ほどの『シブミ』ではないですが、現在にいたるまで彼がどんなものを見て、どんなことを考えてきたのかということが大事なので、彼の過去の描写は丹念に書く必要がありました。今でも、「まだ足りないんじゃないか」と思っているくらいです。そうやって彼の地獄巡りのような場面を特に気合いを入れて書いたら、彼がどういう境地に達しているのかということを私自身が書きながら発見することもありましたし、読者の方にも共感してもらえたようなので、結果としては良かったかなと思っています。

中編 個人の中の「悪」を書く! エンタメ小説の新しいステージ につづく

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