最初のレートは1ドル=1円だった!池上彰が語るお金の歴史裏話
「お金ってなに?」「どうして1枚の紙切れが1万円の品物と交換できるの?」
もし子どもにそんな質問をされたら、みなさんは答えられますか?
そんな純粋かつ奥の深い質問にずばり答えているのが、『池上彰の世界の見方 15歳に語る現代世界の最前線』(池上彰著、小学館)。
著者の池上さんは元NHK記者。現在はフリージャーナリストですが、その活躍ぶりは誰もが知るとおり。
本書は、そんな池上さんが都内の中学3年生のクラスを訪ね、「宗教」「資源」など6つのテーマで講義をした内容をそのまま本にしたもの。
ここでは、「お金」をテーマにした章から、お金にまつわる歴史に焦点を当ててみましょう。
■稲(ネ)が値(ネ)になった
「お金」の概念が誕生する前、経済の基本は1対1の物々交換でした。やがて、1か所に集まって物々交換するようになり、市(いち)が生まれました。
そして、品物を「みんなが共通にほしがるもの」に交換しておいて、後で必要なものと交換する仕組みが生まれたのです。
では「みんなが共通にほしがるもの」とは? それは、お米つまり稲や、着物の材料になる布でした。
当時、稲は「ネ」と発音されていて、この魚はどれだけの「ネ」になるか、イノシシ肉はどれだけの「ネ」と交換できるか、そこから「値」という言葉が生まれたのだそう。また、「貨幣」の「幣」はもともと「布」という意味だとか。
普段何気なく使っている言葉に、こんな歴史があったとは驚きですよね。
■現在のお札はただの紙切れ
とはいえ、稲や布はかさばります。持ち運びが簡単で腐らない金や銀、銅でお金がつくられるようになり、両替商が登場し、いつでも金と引き換えられる預かり証がもとになり、お札が生まれたのだそうです。
日本も1942年までは、お札は金と交換することが約束された「金本位制」でした。しかし現在のお札は、金と交換することはできない不換紙幣。実態はただの紙切れなのです。
それなのに、お金として使えるのはなぜでしょう。池上さんはこう考えます。
金と交換できないのだから、極論すればただの紙。しかし私たちは(お札を発行する)日本銀行を信用しているので、これを「お金」として使っている、と。
さらに日本の場合は日本銀行券がお金として通用すると法律でも定められていて、その「信用」と「法律」のもと、ただの紙切れがお札として価値を保っているといいます。
■1ドル=360円になったワケ
江戸末期に開国した日本は、アメリカと貿易を始めました。当時は日米ともに金本位制で、1円と1アメリカドルが交換できる金の量は、偶然にもほぼ同じ。1ドル=1円だったのです。当時は実際にこのレートで取引が始まりました。
やがて、戦争に次ぐ戦争の時代を経て日本経済は疲弊し、終戦後に米軍占領下で日米貿易が再開されたときに1ドル=360円と決められたのです。
しかし、じつはアメリカの調査団が調査した結果、1ドル=300円を基準に270円~330円の間で調整するのが妥当、という結論だったそう。アメリカは、意図的に円安にしたのです。
池上さんはその理由を、アメリカが日本の経済を早く復興させるために、あえて輸出に有利な円安設定にした、と説明します。
東西冷戦時代で社会主義諸国と対立していたアメリカが資本主義経済のモデルとしてそのよさを世界にアピールするために、あえてレートを日本経済にとって有利な設定にしたのだそうです。
■お金が実体のない存在へ
お金の価値は、みんながそれを「お金」だと思っている共同幻想によって保たれている、という池上さん。さらに、実体のない仮想通貨(バーチャル・マネー)に話を広げます。
仮想通貨の代表例「ビットコイン」は2008年ごろに登場したもので、中央銀行のような、信用を担保する機関をもたないのが最大の特徴。その代わり、最大発行枚数が決められていて、価値の均衡を保っています。
国の信用に基づかないビットコインは、いわば無政府状態の通貨だとか。インターネットが急速な発展を遂げたように、ビットコインも現実の通貨に代わるような信用を得る日がやってくるのか、その動向を池上さんは注視しています。
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中学生とのやりとりもおもしろい本書で、池上さんは「お金」をはじめ6つのテーマで世界の見方を語ります。
「地図」をテーマにした章では、イギリス、オーストラリア、アメリカを中心にした地図を紹介。見方が違えば世界は文字通り逆転し、まるっきり違うものになる、ということがよくわかる、とても興味深い比較です。
国と国との関係が容易に逆転してしまう現代だからこそ、視点を変えれば違う現実が見えてくる。そう教えてくれる、大人にこそ読んでほしい1冊です。
(文/よりみちこ)
【参考】
※池上彰(2015)『池上彰の世界の見方 15歳に語る現代世界の最前線』小学館