吉田豪インタビュー企画:紀里谷和明「僕が仮にイケメンだったとしても何のメリットもない!」(2) (2/5ページ)

デイリーニュースオンライン

お金と創作の関係を思い知らされた

──それが、だんだん産業的な方向も考えなきゃいけなくなってきたわけですか?

紀里谷 たぶん時代がそれを許さなくなってきちゃったんですよね。あの当時はまだギリギリそれが許されてたと思うんですよ。

──予算もなんとなく集まるし。

紀里谷 予算もそうだし、一般のお客さんが求めるクオリティってものが、どっかでCGとかに対して評論家的な、批評家的な見方をするお客さんがどんどん出てきたんですよ。観る人たちが産業側の目線になってきちゃうというか。そういうことじゃないよねって思いが僕のなかではあったんですよ。もの作りってもっと自由で楽しくていいじゃんって。だけど、それがそうならなくなってきちゃったなっていうのは思いましたね。『GOEMON』のときにそれは明快に思ったし、いまはもっとすごいと思うし、もう少ししたらまた変わると思うんだけど、その感じはありますよね。

──紀里谷さんは、映画の予算を集めるのがどれだけ大変なのか、よく話してますよね。

紀里谷 それは、『CASSHERN』あたりから密接にお金というものがクリエイティブに関係してくるっていうのを思い知らされていくわけですよ。もちろんその前の宇多田ヒカルさんのPVからもそうなんですけど、やりたいことがあっても、そこはお金との相談になっていく。プロデューサーは「お金の心配はさせませんよ」って言うんだけど、結局しなきゃいけない。なぜなら、あとのほうになって「ここはカットしてください」とか「これはできません」とか言われちゃうわけですよ。「いやちょっと待ってくれよ、それを削っていくと、そもそも作りたかったものはなんなのかわからなくなってしまう。だったら最初から言ってください」と。一番最初のきっかけは『traveling』ぐらいだったと思うんだけど、あの撮影ってカット数が異常なんですよ。それもみんなに無理って言われながらやってて。「ここのところでこれだけお金が足りない」とかリアルな数字を聞き始めると、「でも送りのタクシー代、何十万とか遣ってるじゃないですか」「だったら早く済ませましょうよ」ってなるから、撮るスピードも異常に速くなっていくし、撮らなくていいようなところは作らないようにしましょうとか考えるわけですよ。

──紀里谷さんが早撮りなのは、そういうことなんですね。

紀里谷 『CASSHERN』なんかそれの最たるもので、たぶんコストパフォーマンス的にあれを越えてるものは日本どころか世界でもいまだにないと思ってるんですよ、作品として。それはやっぱりクリエイティブというものをとにかく最高の地位に置いて、そのために何をするのかっていうことを徹底的に考えていくっていう、そこですよね。

──よく映画とかだと、見えないところにまでお金をかけてるのがすごいみたいな評価になったりするじゃないですか。

紀里谷 それができる時代だったらそれに越したことはないし、みんなやりたいことだと思いますよ。ただ、もう許されないですよね、そういうことは。『CASSHERN』のときは監督だけやってましたけど、『GOEMON』のときにはプロデューサーとして入って制作会社もやって、『ラスト・ナイツ』で今度は配給までやらざるをえなくなっちゃったわけですよ。

──今回、資金面でDMMが絡んで、その結果ここでこうやって取材してる部分もあるわけですけど……(※デイリーニュースオンラインではDMMグループの亀山会長の連載も掲載している)。

紀里谷 DMMさんは亀山(敬司)会長に紹介してもらったの。もう3~4年ぐらいになるのかな。最初はアメリカのスタジオ周ってきたら、脚本を読んだ段階で「これは素晴らしいからやりたい」って人も何人かいたの。しかし、そこに『47RONIN』(※2013年のアメリカ映画。『ラスト・ナイツ』同様、忠臣蔵がモチーフ)が存在することが発覚して、「これ同じネタですよね?」「じゃあこれダメですね」って話になるわけですよ。『47RONIN』ってその当時、ユニバーサルでトップの企画だったんで、それでなくなっちゃって。じゃあどうするんだって言ってたら、いろんなところでインディペンデントでやれる可能性があるかもねって話になって。日本からも、DMMさんじゃないところが、ちょっと話を聞いてもいいってなったんですよ。映画会社じゃないんですよ、映画会社はみんなノーって言ったんで。そこらへんでちょっと光が見えてきて、最終的にDMMさんが一部を負担します、みたいな話になって。

──亀山会長は紀里谷監督の作品はあんまり好きじゃなかったみたいですね。

紀里谷 そうそう、笑い話で言ってるんだけど。あの人はもっと情緒的な作品が好きなんですよ。結構文学的で結構マニアックなものが好きなんですよね。ただ、すごくシビアな人なんで、よくあるのが、お金持ちの人がタニマチ的なことになっていくじゃないですか。

──「売れなくてもいいから」っていう。

紀里谷 そう、それではない。そこが亀山会長の好きなところで、正当にビジネスとして見ているところが逆にすごくいいなと思いますけどね。

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