大阪ドヤ街に活気…西成・ガールズバーが急増するワケ

デイリーニュースオンライン

「居酒屋 芯ちゃん」にて。向かって左から2人目がママ
「居酒屋 芯ちゃん」にて。向かって左から2人目がママ

 かつて「日本で唯一、暴動が起きる街」と言われた大阪・西成のあいりん地区(通称・釜ヶ崎)だが、いまやその様相は大きく変わった。

「最後に暴動らしい暴動が起きたのは08年や。物騒な雰囲気は今もあるけど、昔ほどやない。暴動なんてもう起きへんやろな。今や完全に“福祉の街”になってしもた。それから、“チャイナ”な」

 西成の“最深部”、萩之茶屋本通り商店街の商店主(60代)が言うように、かつては日雇い労働者向けの一杯飲み屋、雑貨店、洋品店がひしめき合い、多くの労働者たちが溢れ、活気が漲っていた通りも、今では7割はシャッターが閉められたままである。

 そして、近隣のマンションやドヤ(簡易宿泊所)の入り口には「福祉の方歓迎」の文字が。“福祉”とは、西成用語で「生活保護受給者」のことである。

「西成全体で100店舗以上あるのでは」

 閑散とし、すっかりシャッター街と化してしまった西成の街だが、よく見ると、シャッターを閉めた店舗の合間合間に、赤、ピンク、黄緑色といった、妙にけばけばしい原色の看板が立ち並んでいることに気づく。

 どの店も「カラオケ居酒屋」と書かれているが、カウンターの中を覗くと若い女性が数人立ち、どう見ても“ガールズバー”の体裁である。これが、前出の商店主が言っていた“チャイナ”の正体だった。

「店名だけじゃわからへんけど、暖簾の真ん中の垂れ布2つ分くらいを上にあげてる店があるやろ。あれ、全部中国系や。いまでは日本の店より多いんちゃうか」(前出・商店主)

 地元の不動産業者によれば「西成全体で100店舗以上あるのではないか」とのこと。それもここ4~5年ほどの間に“爆増”したのだという。

 これはいったいどういうことなのか? 労働者の数が減り続け、“福祉”の文字が溢れるシャッター街に、雨後の筍のごとく「中国人ガールズバー」が増殖し続けているというのは、どう考えても妙である。需要と供給のバランスを考えても、何とも不可解な現象ではないか。その背景には何があるだろうか。その謎に迫るべく、ぼったくりも覚悟で飲み歩いてみた。

 夕方5時過ぎ。西成でも、もっとも中国系の店が集中しているといわれる“ディープエリア”今池本通り商店街と萩之茶屋本通り商店街をそぞろ歩く。車イスに乗りながらカップ酒をあおり、「憧れのハワイ航路」を気持ちよさそうに歌うオッサンが通りかかるなど、閑散としつつも、随所に西成らしさは残っている。自転車に乗った警察官の数がやたら多いのもこの街らしい。

 たしかに、前出の商店主が言っていたように、暖簾の中央部だけを上にまくりあげている店がやけに目につき、その隙間からは通りを窺う女性の目がキラリと光る。目が合うと、すかさず「お兄さん、どうぞ」と声をかけられる。中国人女性だ。しかし、他の繁華街に見られるようなキャッチの姿は皆無である。

 路上で酒を飲んでいた労働者風の男性は言う。

「以前は路上にたむろして、客にしつこくまとわりつく中国女のキャッチもけっこういたんやけど、このへんの客は荒いやろ。それに西成署もうるさいし、ヤクザも強い。中国人といえども、この街のルール守らんと、やっていけへん。そんなこんなで、いつの間にかキャッチの姿は目立たなくなったわ」

 また、目が合った。「お兄さん、いらっしゃい!」の連続攻撃。そのうちの一軒に飛び込んでみた。萩之茶屋本通り沿いにある「居酒屋 芯ちゃん」である。

生活保護受給者が上客

「お兄さん、はじめてやね。このへんの人やないやろ?」

 こなれた関西弁を話す、いかにも素人っぽい真面目そうな女性は、この店のママ、芯ちゃん。福建省出身の26歳だという。他にアルバイトの中国人留学生が2人働いていた。ママはいう。

「うちは4年目になるわ。家賃は10万円いかないくらい。最初に保証金が200万円。ミナミとか梅田なら、この何倍もかかるからお得や。暖簾? こうしとくとお客さんが通りかかったら、すぐにわかるやろ。日本人の店はやってないけど、逆に不思議やわ」

 客はどこから来るのか?

「8割が地元・西成のお客さんや」

 ここで労働者風のがっちりした初老の男性客が口をはさむ。

「俺は現在69や。いまも現場でバリバリ働いているが、客で多いのは、最近は福祉の客や。要は生活保護の受給者。奴らは毎月サラリーマンみたいに決まったカネが入ってくるから、いいお客さんなんや。ここいらじゃ、福祉の客を大事にせんとやっていけへんやろ」

 ぼったくりはないのか? ママが答える。

「以前はけっこうあったけど、そういう店はすぐに消えてしまう。こういう街だから、常連のお客さん大事にしないと続かへんわ」

 たしかに、一歩足を踏み入れてみると、意外なほど健全だ。この手の店に特有の“ヤバさ”は皆無である。

 値段も相当安い。数年前までは一般的なガールズバーのように1時間3000円~4000円のセット料金の店も多かったらしいが、現在は、チャージもかからず、ビール一杯飲むだけでもOKという店が大半だという。生ビールが500円、サワー類は400円、つまみは板わさ、漬物など簡単なものが中心で500円程度、カラオケは一曲100円が相場だ。つまり、ワンコインで、若い中国人女性を相手に、1時間でも2時間でも飲むことができるのだ。

 営業時間は午後3時ごろから遅くも夜11時まで。最近は、格安で若い女性と飲めるといった噂が広まり、西成の外からやってくるサラリーマン客も増えているという。

「そういう人は格好でわかるから、ぼったくられることも多いから注意ね。うちはせんけど」(ママ)

 それにしても、なぜ、ここ西成にこうした形態の店が急増したのだろうか? 後日、地元の不動産屋の社長がその理由の一端を語ってくれた。

「そもそも、このへんじゃ有名な中国系の不動産屋があって、そこの経営者夫婦が、これまで日本人が持っていた店舗の権利を“即金”で買い漁るようになったのがはじまりですわ。即金だから二束三文のカネでも飛びつく人も多い。そして、在日中国人向けの新聞なんかで一斉に募集をかけたんですわ」

 いい悪いは別として、この中国人業者の目の付け所はなかなかすごいものがある。日本人の不動産業者社長もいう。

「まったく盲点やったわ。まさか、西成のシャッター街がこんなに“売れる”とは思いも寄らなかった。いまはまだ地元の客が中心やけど、そのうち“名所”として話題になれば、それなりの集客も見込めるんやないですか」

 この街にはすでに「飛田新地」という名所があるが、客足は年々落ちており、この「中国人激安ガールズバーエリア」が新名所となる可能性も大いにありそうだ。

(取材・文/根本直樹)

根本直樹
1967年生まれ。週刊誌記者を経て、2001年よりフリーに。在日外国人犯罪、ヤクザ、貧困ビジネスから人物インタビューまで幅広く取材執筆。著書に『妻への遺言』(河出書房新社)、編著に『歌舞伎町案内人』などがある
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