上司に理解されない悩みがなくなる「自工程完結」6つのポイント
『現場からオフィスまで、全社で展開する トヨタの自工程完結―――リーダーになる人の仕事の進め方』(佐々木眞一著、ダイヤモンド社)の著者は、長らくトヨタ自動車に関わってきた同社の相談役・技監。
多くの経験を軸として、「一生懸命がんばっているにもかかわらず成果が出ない」人がたくさんいる現代の状況はおかしいと問題提起をしています。
では、なにがよくないのかといえば、問題は「仕事の進め方」にあるのだとか。それはトヨタにおいても同じなので、同社ではいま「自工程完結」呼ばれる新たな取り組みを行っているのだそうです。
上司と部下とのすれ違いは、ビジネスの現場においてはよくあること。著者によれば、その理由としては以下の6つがあるといいます。
(1)なんのために資料をまとめるのか、「目的」の共有がない。
(2)どんな資料をまとめるのか、「アウトプットイメージ」を共有していない。
(3)どうやって資料をつくるのか、具体的な「手順」が共有できていない。
(4)それぞれの仕事で、どういう状態であれば大丈夫なのかが共有されていない。
(5)仕事に必要な情報をもれなく把握できていない。
(6)手順やルールには、なぜそうするのか「ワケ」があるのに、勝手に判断してしまう。
そこで、このような「一生懸命やっているのに上司から理解されない」という理不尽な状態を起こさせないための取り組みが「自工程完結」だということです。
ここで重要なのは、すべての仕事には必ず、うまくいく仕事の進め方=「工程」があるということ。それをしっかり洗い出しているか、ぼんやりとしたなかで仕事をしているかの違いです。
そしてスタッフ部門の仕事の「工程」とは、「意思決定」だと著者はいいます。資料づくりでも企画でも営業でも、なんらかのアウトプットを出していく途中にはいくつもの「意思決定」が存在するもの。それらが積み重なって、最終的なアウトプットが出てきているというわけです。
では、正しい「意思決定」をするためにはなにが必要なのでしょうか? 最終的に正しいアウトプットを出すためには、なにが必要になるのでしょうか?
この問いに答えるために著者は、スタッフ部門の仕事における「自工程完結」のポイントを挙げています。
■ポイント1:「目的・ゴール」をはっきりさせる
「目的・ゴール」を認識していると、「部分最適」を避けることができるといいます。仕事の目的は、お客様に満足し絵いただくこと。だからこそ「目的・ゴール」をきちんと設定し、常に意識しておくことが大切だというわけです。
それがない仕事はなにももたらさず、やっている人のモチベーションも高まらないもの。つまり「目的・ゴール」のない仕事を排除することで、生産性は高まるということです
■ポイント2:「最終的なアウトプットイメージ」を明確に描く
「目的・ゴール」を理解できたら、次は「最終的なアウトプットイメージ」を描き、上司や他部署などの仕事の依頼者と共有することが大切。
なお、共有するときの方法は、大きく4つあるそうです。
・口頭
・文字
・図表、写真
・実物
口頭で伝えるよりも文字や図表、写真などで伝えた方がイメージは伝わりやすいく、それ以上に有効なのが実物を見せることだというわけです。
■ポイント3:「プロセス・手順」をしっかり考え、書き出す
仕事は意思決定の連鎖。いつどこで、どんな材料を使い、どのように意思決定をするのか。それが「プロセス/手順」だということ。
あらゆる仕事は、「プロセス/手順」によって構築されているもの。そして「プロセス/手順」をしっかり洗い出しておけば、いつでも自信を持って仕事をできるといいます。つまり、それが「自工程完結」の重要なポイント。
■ポイント4:次の「プロセス/手順」に進んでよいかを判断する基準を決める
仕事のアウトプットが正しいものになるかどうかを大きく左右するものは、「プロセス/手順」のひとつひとつが、確実に正しく実行されているかどうか。
スタッフ部門の仕事でも同じで、洗い出した「プロセス/手順」でどれだけ精度の高い意思決定ができるかが問われていくわけです。
■ポイント5:「必要なもの」を抜け・漏れなく出す
工場では、正しい結果を導き出すために必要なものを「良品条件」と呼んでいるそうです。スタッフ部門なら、情報、指定の機器やソフトウェアなどの道具、人の能力、理由/注意点など。
そしてこれらは、プロセスごとに求められるもの。たとえば会議の準備という仕事を考えた場合、そのために必要なすべてのものをしっかり準備することで、会議は成功に近づくということ。
■ポイント6:仕事を振り返り、得られた知見を伝承する
「目的・ゴール」「最終的なアウトプットイメージ」をはっきりさせたあとに「プロセス/手順」を洗い出し、そのプロセスごとに「判断基準」と「必要なもの」を明確にする。
そして各プロセスで「これでよし」と自信を持って仕事を進め、アウトプットにつなげていく。それがトヨタの新しい仕事の進め方。
最後にもうひとつ加わるのが、仕事の結果がよかったか、よくなかったかを振り返り、よくなかった場合には、どこに問題があったかを確認し、修正していくことだといいます。
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これらトヨタのメソッドは、他の企業にも応用できるもの。だからこそ本書は、その手法を応用するという意味で利用価値が高いはずです。
(文/書評家・印南敦史)
【参考】
※佐々木眞一(2015)『現場からオフィスまで、全社で展開する トヨタの自工程完結―――リーダーになる人の仕事の進め方』ダイヤモンド社