北朝鮮住民、特別重大報道で「正恩氏が死んだ」と勘違い

電撃的に行われた北朝鮮の核実験をめぐり、朝鮮中央テレビは歓喜する平壌市民の様子を報じている。しかし、一般住民の「生の声」は無関心かつ冷淡だとデイリーNKの内部情報筋が伝えてきた。
北朝鮮は核実験直後に、午後0時(平壌時間)からの「特別重大報道」の予告を行った。その時の様子について平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋は、次のよう語った。
「工場で仕事をしていたところ『特別重大報道があるから早く宣伝室に集まれ』という指示が出たので、何事かと思い緊張した。『(金正恩氏が)死んだんじゃないか』と勘ぐる人もいた」
2011年12月17日の午後0時に「特別報道」が行われ、金正日総書記の死去が伝えられた経験から、今回も最高指導者の死去と勘違いしたようだ。
しかし、テレビから「水素爆弾完全成功」というニュースが流れるや、あっという間に緊張感は消えて、リラックスした空気が流れたという。つまり「大したニュースではない」と受け止められているようだ。
住民のなかには、「いつも聞いている(リ・チュニ・アナウンサーの)声だが、妙に人を緊張させる」などと軽口を叩きながら、バカバカしいと言った表情を見せる人もいたという。
平安北道(ピョンアンブクト)の別の情報筋によると、特別重大報道をやると聞いて好奇心でテレビの前に集まった人々は、ニュースを見ても特に驚く様子はなく、興味のなさが見て取れたという。
放送終了後、紙が配られ「核実験の感想文を書け」と言われたという。この指示は工場のみならず、小学校、中学校、大学や女性同盟にも下された。
市場でも「特別重大報道があるから帰宅せよ」との指示が下され、商人たちは大慌てで帰宅。しかし、核実験のニュースを見て「大したことないのに、こんなことでなんで騒ぐんだ」と愚痴っている。
また、「核も水爆もどうでもいい。カネをいっぱい稼いで余生をのんびり過ごしたい」と関心を全く示さない人がいる一方で、「そんな無駄遣いするカネがあったら配給でも配れよ」と、当局を表立って批判する住民もいた。
核兵器について、知識がない中学生や一部女性からは「核兵器さえあれば何も恐れるものはないとか言ってたのに、なんで水爆まで作るの?」とトンチンカンな反応が見られた。
国内外の情勢にある程度詳しい大学生は「どうせ使えないくせして、なんであんなものを作るんだ」と当局の核、経済の並進路線を批判する。
「商行為への締め付けを緩和したおかげで、市場は安定している。忠誠の資金(金正恩氏への上納金)が増えたおかげで、ドンジュが粛清されることはほとんどなくなっていたが、莫大な額のドルをつぎ込んで作った爆弾が吹き飛んだ。失ったドルを搾り取るため、金正恩氏はドンジュへの締め付けを強めるだろう」
「過去3回の核実験の時は、儲けているドンジュが目をつけられ『非社会主義行為を行った』容疑で逮捕され、財産が没収された。今回も同じようなことをするかもしれない」
「天文学的な額のドルの穴埋めをするために、幹部たちはありとあらゆる名目で、不正を働くだろう。ドンジュも零細商人もどんどん締め付けられるだろう」
今回の核実験成功を最も喜びそうなのは、朝鮮人民軍かと思いきや、最近始まった冬季訓練に励む現場の兵士や指揮官の士気はだだ下がりになっている。
平安北道の北朝鮮軍関係者によると、兵士たちは「水爆一つで全部吹っ飛ばせるのに、なんでこんな訓練をやらなければならないんだ」と訓練に身が入らない様子だった。
指揮官たちは「本当に水爆なんかあるのか」「あんなことをされては、現場の空気が悪くなって、訓練がやりにくくてしょうがない」と当局のやり方を批判しているという。
北朝鮮の人と言えば、当局の過激なレトリックを用い、目をつり上げて韓国、米国、日本を激しく非難するというイメージを持つ読者が多いだろうが、実際は金正恩政策の政策に関心を示さず「自由に金稼ぎさえさせてくれればいい」とか「どうせお上なんてろくなことをしないのだから、余計なことをしてくれるな」との考えを持った人が多い。
特に「市場(ジャンマダン)世代」と呼ばれる若者は、国や金正恩氏に対する忠誠心も関心も極めて低い。興味があるのは、豊かな消費生活や韓流ドラマだ。中には「韓流スターに会いたいから脱北したい」と思う若者すら存在するという。
巨額の予算を投じて核実験をやったのに、今後予想される国際社会からの厳しい対応で経済が悪化でもすれば、人心は更なる離反は避けられない。危機感を煽って国内の一体感を高めるやり方は、2016年を生きる北朝鮮の人々にはもはや通じないのだ。