【激震】安倍政権が断行した容赦なき「官僚粛清」の知られざる内幕

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粛清の成果は今年実るか?
粛清の成果は今年実るか?

【朝倉秀雄の永田町炎上】

 総括の意味で2015年の政治現象を振り返ると、特徴は「最強の官房長官」こと菅義偉を得た安部総理が、ひたすら「官僚支配の悪弊」の打破に挑み、「政治主導=官邸主導」の政策決定をよりいっそう加速させたことであろう。

「政治主導」の実現は歴代内閣の悲願だが、これまでは既得権を失うまいとする官僚や彼らと結託した族議員どもの抵抗にあって遅々として進まないのが実情だった。この点については「アッパレ安倍総理!」と言う他ない。

 およそどんな組織でも、実務とカネと人事を握る者が組織を支配する。これは国家と言えど例外ではない。戦後の政治は俗に「官僚」と呼ばれ、高度な国家公務員試験に合格し、「資格任用(メリットシステム)」された「技能(テクノラート)集団」によって牛耳られてきた。いわゆる「官僚支配」である。

 我が国のようにごくわずかな期間のうちに総理が頻繁に替わり、また「適材適所」とは言いながらも、実際には政策能力のあるなしにかかわらず、総理との親疎関係や当選回数、派閥の力学によって選ばれる「順送り人事」の閣僚は、じっくりと腰を据えて政策や行政実務を学ぶ暇はない。

 生涯、役所で飯を喰う官僚から見れば、所詮、総理や閣僚などは、単なる「お客さま」に過ぎない。政策や行政実務の「プロ」である官僚が内閣を操縦するようになるのも無理はあるまい。特に予算編成権を握る財務官僚=旧大蔵官僚は、外局の国税庁の税務査察権を背景に強大な権力も持ち「俺たちは富士山だが、他の省庁はタダの山」などと嘯き、霞が関に君臨してきた。

幹部官僚人事は官邸が決め、「閣議案件の事前審査制」を剥奪

 官僚の人事権は法律上は大臣にあるが、一般職国家公務員の「政治的中立牲」を盾に政治介入を拒み、「オレたちの人事はオレたちが決める」とばかりに、実際には後任の次官を含め高級官僚の人事は各省庁の事務方トップの事務次官が決めてきた。

 安倍総理と菅官房長官は中央省庁の幹部人事を一元管理するために新設された「内閣人事局」を活用して高級官僚の人事は内閣主導で決めることにした。「官邸に嫌われたらどうなるかわからない」と官僚たちに「激震」が走ったことは言うまでもない。

 もっとも閣僚の中には、閣議の構成員として官邸主導の政策決定に協力しなければならない立場なのにも拘らず、官僚たちの巧妙なレクチャー(御進講)攻勢によって“マインド・コントロール”され、たちまち各省庁の代弁者に仕立て上げられてしまう者もいる。

 消費税増税時の軽減税率の導入を巡り、財務官僚たちの思いつきによる「マイナンパーを利用した還付金案」のお先捧を担いだ麻生財務相などは、その代表であろう。安倍総理は参議院選挙を見据え、「それでは痛税感の緩和にはならない」とあくまで「酒顆と外食を除く食品全般」を軽減税率の対象にすることに執着する公明党との関係を重んじ、官邸主導で一蹴したのも当然だ。

 旧自民党政権時代の閣議案件は、前日の官僚トップで構成される「事務次官等会議」で全会一致で承認されない限り閣議にはかけられないという悪しき慣行があった。このために閣議は完全に形骸化し、単に閣議書に戦国武将ばりに「花押」をしたためる「お習字会」に成り下がっていたくらいだ。安倍総理は第二次政権を発足させるに当たり、「事前審査権」を剥奪し、金曜日の閣譲で決まったことを各省庁の事務方トップに周知させるだけの場に変えてしまった。

 それに代わるものとして総理と正副官房長官、それに経産省出身の今井尚哉首席秘書官を加えた計6名で毎日、必ず開かれる「正副官房長官会議」を政権の基本方向、進路を決める官邸の事実上の司令塔とした。これも「官邸主導」の大きな前進であろう。

内閣法制局の首をすげ替え、「聖域」の自民党税調にもメス

「小役人」の集団に過ぎないのに「法の番人」などと称する内閣法制局による“憲法解釈”も「官僚支配の悪弊」の一つであろう。行政府による憲法の「有権解釈」は内閣の責任において行なうのが当然の道理であり、内閣の一部局に過ぎない内閣法制局などは単なる「助言機関」に過ぎない。それを取り入れるかどうかは内閣自身が決めることだ。

 安倍総理は従来の解釈に執着して抵抗する長官の首をすげ替え、外務省出身の小松一郎を長官に据える「異例」の人事を断行し、2014年の7月に集団的自衛権を限定承認する閣議決定を行った。安全保障環境の変化を顧みず、野党や浮世離れした憲法学者、そして「違憲論」を唱えた宮崎礼壹元内閣法制局長官ら「抵抗勢力」をカでねじ伏せ、2015年に安全保障関連法案を成立させたのは快挙という他はない。

 そして何と言っても安倍総理の「官邸主導」の実現への並々ならぬ熱意を見せつけたのは、これまで「聖域」とまで呼ばれてきた「自民党税制調査会」に初めてメスを入れたことだ。軽減税率の導入にあまり前向きではなかった、衆院当選15回を誇る“重鎮”の野田毅自民党税制調査会長を事実上、更迭したのだ。そして扱いやすい「軽量級」の宮澤洋一議員を後任に据えた。

 毎年の税制改正は「党税調」の野田をはじめ額賀福志郎や伊吹文明ら財務大臣経験者や財務官僚出身などの俗に「インナー」と呼ばれる「税調族」の重鎮たちによる非公式会合によって決められてきた。安部と菅は歴代内閣ができなかったことに果敢にも切り込んだわけだが、政治家の世界でもやはり東大卒のエリートは私大卒の「たたき上げ」には所詮、かなわないようだ。

朝倉秀雄(あさくらひでお)
ノンフィクション作家。元国会議員秘書。中央大学法学部卒業後、中央大学白門会司法会計研究所室員を経て国会議員政策秘書。衆参8名の国会議員を補佐し、資金管理団体の会計責任者として政治献金の管理にも携わる。現職を退いた現在も永田町との太いパイプを活かして、取材・執筆活動を行っている。著書に『国会議員とカネ』(宝島社)、『国会議員裏物語』『戦後総理の査定ファイル』『日本はアメリカとどう関わってきたか?』(以上、彩図社)など。最新刊『平成闇の権力 政財界事件簿』(イースト・プレス)が好評発売中
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