【ニッポン隠れ里奇譚】カミサマと呼ばれた悪魔が宿った呪い村=大分県N集落 (2/3ページ)
ナミヨとハツヨは祈祷部屋にこもって、二人の親族が入れ替わり訪れては、ナミヨの祈祷を助けた。祈祷は実に数日間続くこととなった。いつしかみんなトランス状態に陥っていた。その祈祷の最中にハツヨは次のように口走ったという。
「死んだ父がついておる。赤い池から来ておる......」
ナミヨは目を血走らせて、応えて叫んだ。
「なら、アタイが悪魔を退治してやる!」
祈祷はいつしか悪魔退治の奇怪な儀式と化した。ただ、実際の悪魔は、他ならぬカミサマと呼ばれた存在のほうだったのだが......。
ハツヨは、まず首を絞められた。身体全体をなぶられた。悪魔を追い出すためだ。なぶったのは、カミサマであるナミヨのほか、なんとナミヨやハツヨの親族たちだった。祈祷がしばらく続いた後、ナミヨがハツヨの姉にこう命じた。
「ハサミを3丁持ってきて」
そして、やがてハツヨを囲んで、ナミヨと、ハツヨの実弟、実母がそれぞれハサミを手にして座った。
「悪魔を取り除くにはこれしか方法はないよ......」
ナミヨがつぶやくと、3人はハサミを一斉にハツヨの膨らんだ腹部に突き立てた。警官がナミヨの家でハツヨの死体を見つけたとき、その頭の皮は剥ぎ取られ、下あごは深く抉り取られていた。舌べろも切り取られているらしく、喪失していた。腹は縦横に深く裂かれ、不気味な赤黒い空洞 が、ぽっかり穴をあけていた。
いたはずの赤ん坊はいなかった。ただ、空洞の肉塊があるだけだった。赤ん坊は、家の裏の畑に埋められていた。
僕がNの集落を訪ねたとき、驚いたことにまだ事件のあった家も残っていたし、赤ん坊が埋められた家の裏の畑も残存していた。
それどころか、事件を引き起こしたナミヨの家族は、その家にまだ住まい続けていた。だから、今回は仮名を使わせてもらうのを許してほしい。ただ、ナミヨはさすがにもういなかった。人は簡単に故郷や実家を捨てられはしない。特に昔はそうだった。
事件後、ナミヨは逮捕され、町祭りの時に市中引き回しのさらし者にされた。まだ戦前の処罰の感覚が残っていた時代だった。