【永田町炎上】”衆愚政治”が生んだ間違いだらけの議員選び

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Photo by Luke,Ma
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【朝倉秀雄の永田町炎上】

■「与えられた民主主義」が質の悪い国会議員を生む

 すでに故人だが、筆者の同郷に「徳さん」こと徳大寺有恒という著名な自動車評論家がいた。この人の歯に衣着せぬ『間違いだらけのクルマ選び』という著書は一世を風靡し、「間違いだらけ──」は時の流行語ともなった。この「間違いだらけ」が何より当てはまるのは、昨今の政党の候補者選びと有権者の議員選び、そして安倍総理の閣僚選びだろう。

 間違って選ばれた議員の典型は、タレント弁護士から参議院議員にまで成り上がった丸山和也であろう。丸山は何を血迷ったのか、2月17日の参院憲法審査会で「今、アメリカは黒人の血を引くね。これは奴隷なんですよ」などと暴言を吐き、結局、謝罪に追い込まれた。だが、いやしくも世界最強の国家にして日本の同盟国の元首に対し、そんな差別的発言をすることは日米の友好関係にとって極めて有害であり、与党の国会議員としての見識を疑われても仕方があるまい。むろんオバマ大統領は、ケニア人の留学生である父と白人の母との間に生まれ、断じて奴隷の子孫などではないのだから、丸山の明らかな事実誤認だ。しかし、彼のような人物にまともな政治センスを求めるのは、どだい無理なのかも知れない。

 英仏の「市民革命」のように、民主主義を獲得するために民衆が尊い血を流したわけでもなく、敗戦によって連合軍最高司令部(GHQ)の占領政策によって突如として降って湧いたように「主権者」とされた日本国民にはそのありがたみが実感できないだろう。戦後、70年経っても国民の政治への関心が低く、唯一の「政治参加」の場である選挙の投票率がいっこうに上がらないのもそのためだ。

 そうした国の民主主義は得てして「衆愚政治」に陥りやすい。「衆愚政治」では有権者は候補者の政治的資質や政策能力を冷徹に吟味せず、感情的・情緒的判断に流されやすく、見栄えがよいとか有名人だとかいった理由だけで票を投ずる傾向が強い。またその時々の「世論」や「風」に翻弄され、場当たり的で、気紛れな選択をする。

 政党はそれに乗じ、当選後に戦力になるかどうかなどはまったく考慮せずに、単に集票効果だけを狙った候補者を擁立しようとする。オリンピックでメダルを獲ったというだけで、ろくに国会に出てこないくせに、分不相応にも再選を企て、世話になった「生活の党」を裏切り、民主党入りを画策しているらしい谷亮子などはその代表であろう。

 2月9日、元SPEEDの今井絵理子が自民党本部で夏の参議院選への出馬会見を行ったが、今井に政治的資質や政策能力があるとはとうてい思えないし、そもそも国会議員になっていったい何がしたいのか筆者にはさっぱりわからない。これも「間違いだらけの候補者選び」の典型例だ。

■「小選挙区制」と「派閥」の教育機能の低下が閣僚を劣化させる

 それにしても昨今の日本の閣僚と国会議員の劣化が甚だしい。閣僚では甘利明前経済再生担当相が口利き疑惑で辞任し、島尻安伊子沖縄北方領土担当相は自分の所轄事項であるはずの「歯舞」という漢字が読めず、秘書官に耳打ちされてやっと国会答弁を乗り切る始末。また、丸川珠代環境相は東京電力福島第一原発事故後に定めた除染などの長期目標について「何の科学的根拠もない」などと放言し、撤回に追い込まれている。さらに岩城光英法相は衆議院予算委員会で環太平洋経済連携協定(TPP)や特定秘密保護法に関し、答弁が二転三転し、審議が止まる有様だ。

 閣僚ではないが、「政務三役」の一人である高島修一副内閣相などは甘利前大臣に代わってニュージーランドで開かれたTPP署名式に出たのはいいが、自身やブログで「ブルーチーズはおいしかった」と記載。日本の酪農関係者の心理を逆なでしたとして衆院予算委員会で謝罪に追い込まれている。

 国会議員では中川郁子議員と妻子持ちの門博文との路上キスに加え、宮崎謙介議員が「育休」を宣言して物議を醸した挙げ句、妻の金子恵美議員の妊娠中に京都の自宅マンションに女性タレントを連れ込んだ“不倫疑惑”で議員辞職に追い込まれた。この件に関しては、党の重鎮たる溝手顕正自民党参議院会長までが「うらやましい人いるんじゃないの」などと軽口を叩き、顰蹙を買う有様だ。

 宮崎と同期当選組の武藤貴也議員などは未公開株について「国会議員枠で買える」などと甘言を弄して世間を欺いたばかりか、国有財産である議員宿舎に同性の“恋人”を連れ込むなど政界の風紀の乱れが甚だしい。とりわけ自民党が政権に返り咲いた2012年12月の総選挙での初当選組においてその傾向が強い。

 では、なぜこうした問題児ばかりが閣僚や国会議員に選ばれるのであろうか。理由は内閣の「サプライズ」を狙った人気取りのための人事、それと衆院選における「小選挙区制」と派閥の教育機能の低下にある。かつての「中選挙区制」の下では、同じ与党から派閥を背景に複数の者が立候補し、派閥対派閥の選挙だったから、有権者はその政治的資質を吟味することができた。ところが「小選挙区制」となり、党対党の選挙の構図では、候補者本人の資質などは考慮せず、所属政党で選ぶことになるから、「○○チルドレン」などと言われる“不良議員”を大量に輩出することになる。

 派閥のタガが緩み、教育機能が低下し、バカな議員を生む。ちなみに中川郁子や門博文、宮崎謙介などは、奇しくもすべて「二階派=志師会」の所属だ。筆者の大学の先輩である領袖の二階俊博会長は海千山千だ。現役として唯一、「政治家」の名に値する人物なのだから、所属議員の教育を徹底してもらいたいものである。

朝倉秀雄(あさくらひでお)
ノンフィクション作家。元国会議員秘書。中央大学法学部卒業後、中央大学白門会司法会計研究所室員を経て国会議員政策秘書。衆参8名の国会議員を補佐し、資金管理団体の会計責任者として政治献金の管理にも携わる。現職を退いた現在も永田町との太いパイプを活かして、取材・執筆活動を行っている。著書に『国会議員とカネ』(宝島社)、『国会議員裏物語』『戦後総理の査定ファイル』『日本はアメリカとどう関わってきたか?』(以上、彩図社)など。最新刊『平成闇の権力 政財界事件簿』(イースト・プレス)が好評発売中
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