現役医師が証言する「アーモンドでホルモン値アップ」ブームの嘘
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出産
妊活に対する関心が高まり、さまざまな情報が飛び交うなか、インターネット上で「アーモンドを食べるとホルモンの値が上昇する」という噂が流れました。
具体的には、アフィリエイトサイトの『妊活サプリ口コミ』が「アーモンドが不妊に効果がある」と紹介したり、ママ応援サイトの『ママリ』が「プロゲステロン(黄体ホルモン)を増やす食べ物」としてアーモンドを勧めたりしています。
でも、それは本当なのでしょうか?
妊娠に効果がある食材について、不妊治療の専門の「はらメディカルクリニック」原院長に、正しい知識を教えていただきたいと思います。
■ホルモンの値が高ければいいわけではない
閉経前、女性の体のなかでは、毎月妊娠への準備がおこなわれています。生理がすぎたころ、脳下垂体からはFSH(卵胞刺激ホルモン)が分泌され、卵巣で卵胞のもとになる原子卵胞が成長をはじめます。
その後、卵巣はエストロゲンを分泌して、これを受けて脳下垂体がLH(黄体化ホルモン)を分泌し、排卵をうながします。さらに排卵後、卵胞は黄体ホルモンを分泌し、子宮内膜が妊娠準備をはじめます。
このLHと黄体ホルモンの値が低いと、排卵や着床がうまくいかず、妊娠しづらいということでしょうか。
「基準より値が低いのはよくないけれど、値が高ければいいというものでもありません。検査の結果を見て、医師とともに治療方法を考えていきます」(原先生)
インターネット上では、LHや黄体ホルモンの値に一喜一憂する人が多く見られます。同じように不妊治療に悩む人の体験を聞きたい気持ちもしますが、不妊の原因は人それぞれ。医師に確認するのがいちばんですね。
■アーモンドひとつで妊娠するわけでもない
インターネット上で、アーモンドを食べると黄体ホルモンの値が上がるという噂が広がり、アーモンドを食べると妊娠しやすくなるという話を信じてしまう人もいました。
「アーモンドに含まれる脂質が黄体ホルモンの原料であることは確かです。
しかし、黄体ホルモンの産生量は卵巣の機能により上下します。卵巣機能が低下している方であれば、アーモンドを食べて脂質を摂取しても産生量が増えるとは言えません。
そもそも、黄体ホルモンの値が高ければ妊娠するというものではありません。不妊治療をしているなら、病院で適切な治療をして黄体ホルモンの値を安定させるべきです」(原先生)
ホルモンの値が高ければいいというものではないのですか?
「生理周期に関わる各ホルモンの正常値は、生理周期に合わせ変動します。黄体ホルモンの場合、排卵直後に採血する場合には3pg/ml以上が理想で、排卵の4日目以降に採血する場合には10~15pg/mlが理想です」(原先生)
LHが排卵をうながし、さらに黄体ホルモンが子宮内膜を厚くして妊娠しやすくするんですよね。
「単純に、LHや黄体ホルモンの値が高ければいいということはありません。お互いのバランスが重要です。したがって、不妊治療では病院で検査をおこなって不妊の原因を探り、ひとりひとりに合った治療を進めていきます」(原先生)
ホルモンの値が低いことが不妊の原因だと聞くと、そこだけ見て「とにかくホルモンの値を上げなければ」と思いこんでしまいそうです。医師に確認することで、正しい治療方針が見えてきますね。
■妊娠のためには抗糖化作用のある食材を!
実際に、妊娠するために避けたほうがいい食材、意識して摂ったほうがいい食材はあるのですか?
「妊娠しやすい体づくりには、AGE(終末糖化産物)を避けることも必要です。AGEは老化を促進し、卵巣や卵子、精子の産生に悪影響をあたえます。AGEが多く含まれるフライドポテト、白米、白砂糖は控えたほうがいいでしょう」(原先生)
たしかにフライドポテトや白砂糖には、あまり健康によくないイメージがあります。では、老化を防ぐために効果的な食材はあるのでしょうか。
「緑茶やビタミンB群を豊富に含む緑黄色野菜には抗糖化作用があり、排卵を改善します。老化物質であるAGEを減らす食材は、排卵にもいいのです。バランスの取れた食生活を心がけることはもちろんですが、サプリで補助しても大丈夫ですよ」(原先生)
卵子の老化予防に緑茶が効果的とは知りませんでした。緑茶はカフェインを含んでいるため飲み過ぎは禁物ですが、1日3杯までと決めれば取り入れやすいですね。すぐに試せる情報がわかって安心しました。
■変な噂に惑わされないようにするためには
不妊治療で不安ななか、ついインターネットなどの情報に惑わされてしまう人もいます。情報に惑わされないためには、どうすればいいのでしょうか。
「情報が気になるなら、まずは病院で確認することですね。たとえば当院では、インターネットの情報をプリントアウトして持ってきてもらうようにしています。記憶だけで話すと、記憶違いということもありますからね。
プリントアウトしてもらった上で、『これはウソですよ』『これは信じてもいいから、この情報でがんばりましょう』というようにアドバイスします。真偽を確認するには、やはり産婦人科医に聞いたほうがいいですよ」(原先生)
不妊治療中は、ストレスから情緒不安定になることも多いもの。インターネット上の情報に惑わされるのも無理はありませんが、間違った噂を信じると、不妊治療が遠回りになってしまうこともあります。
わからないことは病院で確認するのがいちばん。ひとりで悩まず、医師を信頼して不妊治療に取り組んでいきましょう。
(文/ぱるぱる)
【取材協力】
※原利夫・・・医学博士。58年慶応義塾大学大学院医学研究科修了にて医学博士学位を取得。同大産婦人科助手を経て、62年東京歯科大学市川病院講師、平成元年千葉衛生短大非常勤講師となる。
平成5年、不妊治療専門クリニックはらメディカルクリニックを開設。専門は生殖生理学、内分泌学、精子学。著書に『図解赤ちゃんがほしい人のための本-二人で治す不妊』池田書店、『不妊治療がよくわかる 元気な赤ちゃんができる本』池田書店など。
【参考】
※原利夫(2008)『図解赤ちゃんがほしい人のための本-二人で治す不妊』池田書店